話(高校生連載)
□よく噛んで食えよ
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目を開くと、いつもすぐそこに青い壁がある。
何故か俺には睡眠時に右を下にして丸まるという癖があって、そうするとこのベッドの位置的に壁が目の前にくるのだ。
坂田の家に転がり込んでから、早いものでもう半月と少し経った。はじめは不眠体質と緊張のせいでなかなか眠れなかったが、最近は居心地の良さに慣れたのか気付けば寝入っている。
青い寝間着は坂田に借りたものだ。身長が同じらしく丈はちょうどいいのだが、いかんせん俺が細すぎるので、気を付けていないと下がずり落ちそうになる。
恥ずかしいから坂田には言っていない。そのうちもう少しマシな体になって、こんな情けない状態ともおさらば出来る、はずだ。
いつも通り制服に着替えてからリビングへと向かった。ドアを開けると味噌汁の匂いがして、心地よい空腹感に気付く。これがいわゆる健康的な生活というやつなのだろう。
「おはよー土方!よく眠れたか?」
「寝れた。いい匂いだな」
カウンターキッチンの向こうには、シャツの上に紺色のエプロンを着けた坂田がいた。二人分の朝食と二人分の弁当を毎朝早くから起きて作っているのだ。
最初は面倒をかけて申し訳ないという気持ちがあったが、本人が楽しんでいるので今は素直に感謝して好意に甘えている。
三食と安眠を無償で与えられ、俺は少しずつながら真人間に近付いてきているような気がした。
「米、一膳いけるか?」
「やってみる」
「無理だったら言えよ?俺食うから」
頷いて白米の盛られた茶碗を二つ受け取る。そのままテーブルへと運ぶと、すぐに坂田もトレイに味噌汁と卵焼きと焼き魚を載せて持ってきた。
青い机上に並ぶのは、いつものことながらきちんとした朝食だ。白く淡く立ち上る湯気が柔らかく揺れている。
「「いただきます」」
二人で声を揃え、箸を伸ばした。