話(高校生連載)

□よく噛んで食えよ
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さすがに中卒というのは俺も避けたいから、とりあえず進級出来る程度には授業に出ている。試験で上位を狙うのも難しくはないし、このままいけば卒業くらい出来るだろう。

問題は土方だ。このままいけば確実に三年には上がれない。最近の授業には無理矢理出させているからいいものの、いかんせん中間の出来が悪すぎた。理数系がてんで取れていない。よくもまあこの調子で二年になれたものだと思う。そう言うと、土方は小さな声で秘密を明かした。

成績は、身体で買えるのだと。

さすがに呆れた。土方にというか、こんな肉も色気も何もない欠食児童を買う大人がいるという事実に。しかも教師。しかも一人じゃなく、三人。魔王とか陰で呼ばれている俺が言うのもなんだが、世も末だ。

「…今日から放課後は勉強するからな」

「高杉ってなんだかんだ真面目だよな」

「うっせ」

いわゆるタコさんウィンナーをフォークで口に運びながら、土方はニヤニヤと笑っている。出会った頃は怯え気味でろくに口も開かなかったのが嘘のように、最近は随分生意気になった。

安直な表現になるが、まるで別人のようだと思う。痩けていた頬には少し肉がつき、色白なのは変わらないものの血色が良くなってきた。色々と俺が連れ回して飯を食わせたのもあるが、何より坂田という男の存在が大きいのだろう。

会ったことはないが、話にはいつも聞いていた。世話好きで土方のことが好きで、色々と口は出すものの手を出してくることはない、とかなんとか。良い奴なんだと、土方はいつも話の締めくくりに言う。

本当に良い奴なのかどうかはわからないが、少なくとも料理はうまかった。土方の食べきれない弁当を食べることがあるが、正直そこいらの店より味が丁寧で好ましい。幾らか払ってやってもいいくらいだ。

そんな坂田の家に住むようになってから、土方は俺の与える金を必要としなくなった。「もう、大丈夫」そう告げる時に少し嬉しそうな、けれどどこか不安げでもある表情を浮かべていたことを覚えている。

土方がこれまで身体を売っていたのは、家の者に脅されていたからに違いない。坂田の家に住み、ようやくそいつから逃れることに成功したというわけだ。未だに土方の口から事情は語られていないが、言葉の端々や態度からなんとなく想像することは出来た。

根深い問題なのだろうと思う。きっと本人が思っている以上に。家出に成功したくらいで全てが解決するとはとても思えなかった。俺たちはまだ学生で、未成年なのだ。簡単に家族との縁は切れない。

俺も厄介な野郎を買ったものだと思う。もう金を払う必要がないのだし、面倒に巻き込まれる前に捨ててしまったってよかった。どうせ嬉々として坂田とやらが拾うだろう。

けれど今更放り出すのも気が咎めた。癪な話だが、土方の揶揄するとおり、俺は案外真面目なのだ。



 
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