話(高校生連載)

□よく噛んで食えよ
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一人で食べる弁当は味気無い。だからと言ってグループの確定してきたクラスの連中に混ざるのも面倒で、校舎裏の日当たりの良い場所にビニルシートを広げている。

日当たりが良いと言っても、ほとんど手入れもなされず謎の植物たちが密生してジャングルと化したこの一角は、一見人が入り込めるとは思えない穴場だ。元々校舎裏はあまり人の来ない場所だし、目撃される可能性は限りなく低い。

別にこそこそする必要はないのだが、どうせ一人になるなら徹底的に一人でいたかった。こういうところは確実に父親似だ。あの家中を青に染めた馬鹿な男と。

空になった弁当箱に向けて手を合わせる。今頃は土方も屋上か何処かで俺の作った弁当を食べているのだろう。それを思うと少し幸せになれた。

ちゃんと全部食べられただろうか。一応量は減らしてあるのだが、朝少し無理をしていたようだから残してしまったかもしれない。

余ったおかずを食べている魔王の姿がぼんやりと思い浮かぶ。恋敵でもある男が自分の手料理を食べているのはあまり好ましくないが、きっと土方は幸せだろうから良しとした。

魔王もとい高杉は、もともと超のつくほど優等生だ。校内で試験があれば必ずトップで、かといって頭でっかちなわけでもなく運動神経も抜群。ミステリアスな容姿と雰囲気のせいもあるのか、とにかく隠れファンが多いことで有名だった。

実は好きになった女の子が高杉を好きだったことがある。そう、高杉に想い人を奪われるのは二度目なのだ。情けないことに。

高く伸びた名も知らぬ草たちの向こうに、屋上の黒い鉄柵が見える。きっと二人はあそこにいるのだろう。

屋上は今、魔王と土方の根城だ。許可なく立ち入ればぼこぼこにされるという噂だった。これまでのさばっていた不良連中は全員高杉に勝てなかったと聞く。それゆえの魔王の称号。

高杉は悪い奴じゃない、と土方は言っていた。あいつのお陰で身体を売る必要もなくなったのだと。もちろんそれは本当なのだろう。

けれど本音を言えば、高杉とは一緒にいてほしくなかった。俺が、家でも何処でも一緒にいて、護ってやりたい。遠目に見た高杉は、案外小さくて拍子抜けした。きっと俺の方が土方をちゃんと護ってやれるはすだと思う。

そんなことを言えば困らせると知りつつ、つい口に出してしまいそうになったりする。こんなときに山崎がいてくれれば助かるのだが、残念ながら俺は見捨てられてしまったようで、最近は挨拶すら交わしていない。

大丈夫、俺は、まだ大丈夫。

呟いて立ち上がった。もうすぐ、昼休みも終わりだ。






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