話(高校生連載)

□優しい人
1ページ/2ページ


「今日はあったけェな」

「不思議と、いつも穏やかな天気なんですよ」

「そーいやそうだな」

広い霊園の一角。左右に立ち並ぶ墓石をなんとなく交互に見ながら、四人一列の二番手を歩いていた。俺の後ろに土方さん、その後ろが旦那、そして一番前を行くのは何故か高杉さんだ。足下の砂利がスニーカーの裏で、人数分の控えめな音をたてている。

「あ、すぐ其処です」

後ろから言うと、数歩進んだところで高杉さんは立ち止まった。その横に並ぶ。

「綺麗だな」

「でしょう?」

水で清められたばかりの御影石は、陽光を浴びて瑞々しい光を反射させていた。飾られた花も、まだ野に咲いているのかのように生き生きとしている。例年通り父さん達とはちょうど入れ違いになったのだろう。

桶を持ったまま石造りの階段を一つ上り、不要ではあるけれど汲んできた水を柄杓で石の天辺から流した。挨拶代わりだ。

「高杉、火」

振り返ると、土方さんが差し出した線香の束に高杉さんがライターで火を着けていた。

「ほれ」

「ありがとうございます」

傍らに柄杓を突っ込んだ桶を置いて、四分割されたうちの一束を受け取る。
墓前の線香皿には、二人分の線香がまだ燃え尽きずに残っていた。そっとその上に乗せて、旦那と入れ替わる。

全員の線香が入り、静かに手を合わせた。目を閉じると、柔らかい風と太陽の光を感じた。小鳥の鳴く声が聞こえる。
特に話しかけたりはしない。言葉にしなくたって、あの聡明な人はきっと全てお見通しだ。

「さてと、飯にすっか」

「は?」

「此処でか?」

いそいそと荷物を広げ出した旦那に、土方さんと高杉さんが訝しげな視線を向ける。びっくりさせたくて二人には黙っていたのだ。予想通りの反応で思わず笑ってしまった。

「毎年恒例なんですよ」

「墓場ランチな」

「怒られねーのか?」

「大丈夫、住職公認ですから」

「そっち敷いてくれー」

首をひねりながらも、土方さんと高杉さんは仲良く両端を持って青いシートを砂利の上に敷いた。二枚並べた上に、四人分のお昼が入った重箱と俺たちの体が乗る。例年通り、下はでこぼこでちょっと痛い。

「玉子焼きにしらす入れてみた」

「美味い」

「珍しいですね、甘くないのって」

「いつもこれにしろ」

墓石に囲まれ、シートを一枚挟んだだけの砂利の上で、緩い風には線香の匂いが乗っていて。それでも俺たちは、いつもの青いリビングに居る時と変わらない。

あれから三年が経った。俺たちは次の誕生日で、姉さんの歳に追い付く。そしてあっという間に追い越していくのだろう。

「なあ…どんな人だったんだ?」

遠慮がちに、土方さんが言った。その目はやっぱりどこか姉さんと似ている気がして、薄れずに残る面影を重ねてみる。

「優しい、人でした。生まれつき心臓が弱くて、学校にもあんまり行けなくて…でもいつも笑顔で人に好かれてて」

「しかも超、美人なんだよ!」

「この人一目惚れして、『絶対結婚する、お前の姉ちゃんの旦那になる!』って五月蝿かったんです」

「それでこいつのこと旦那って呼んでんのか?」

「そう呼べって脅されたんですよねー。昔はすぐに暴力に訴えてきたから従わざるをえなくて」

「義兄さんとか呼ばせる方が真実味あんのにな」

「昔からアホなんですよ」

「なんだと!」

「暴力反対ー!」

旦那がふざけて拳を振り上げ、俺は子供のように両腕でバリアを作ってそれに応えた。アホみたいなやりとりに土方さんが少し笑う。高杉さんも呆れたように唇の端をあげていた。黒い石はそんな俺たちを見守るように、光を浴びて優しく輝いている。



 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ