話(高校生連載)
□優しい人
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「俺ね、ずっと罪悪感があったんです」
「罪悪感?」
「なんであんなに良い人が死んで、俺みたいなのが生きてるんだろう、って」
「…」
静まった空間を走るように、頭上の青空を飛行機が横切っていった。その間黙って紙コップに口をつける。冷たいお茶は美味しくて、まだ心の底に澱んでいる卑屈な気持ちも洗い流されていくような気がした。
エンジン音が徐々に小さくなる。見上げた空には薄い飛行機雲だけが僅かに残されていた。誰も何も言わない。俺の言葉の続きを待っている。
情けない心情を吐露するのは、正直少し辛かった。それでも、今この人たちに伝えないと後悔するってことだけは、わかっていた。
「それと…あとは無力感ですかね。俺は誰も助けられないんだ、みたいな」
「…でも…、今は違うんだろ?」
「はい。お陰様で」
俺たちは皆どこか似たような後ろ暗さを胸の奥に抱えていて、それを互いの存在で緩和しあっているようなところがある。それはとても心強いけれど、ふと自分だけが皆を必要しているんじゃないかと思って、途端に怖くなったりするのだ。
だから、俺はこの人たちに言いたかった。あなたの存在に救われているんだと。
「ありがとうございます」
土方さんが耳まで赤くして俯いて「バーカ」と呟いた。高杉さんと旦那は黙ったままで、空とか青のシートなんかを眺めたりしている。その沈黙は優しかった。俺はなんだか照れくさくなって、しらす入りの玉子焼きに箸を伸ばした。
姉さんはきっと、不器用な俺たちをあの綺麗な笑顔で見ていることだろう。
哀しみはきっといつまでも消えないけど。罪悪感も無力感も、感じている暇があるのなら、今目の前にいる人たちを全力で大切にしたい。
「あー、美味しい」
「つーか一人で食いすぎなんだけど!」
「早いもん勝ちですよー」
「高杉!その食いしん坊押さえろ!」
「ぎゃー!暴力反対ー!」
「うっせェ!」
酒も呑んでないのに急に全員ハイテンションになって、騒いで笑って笑いすぎて、さすがに住職に怒られた。
終
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