話(高校生連載)
□secretion
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まさかと思い、許可も得ずに浴室のドアを開ける。
「っ…!」
土方は青いタイル敷きの床に俯せに横たわっていた。倒れた拍子にぶつかったらしいシャンプーやら石鹸やらがその周りに散らばっている。シャワーから落ちてくる湯が、土方の白い身体に休みなく降り注いでいた。
一瞬、動けなくなる。
初めて見る土方の背中には、故意につけられたとしか思えない傷跡が幾つも浮いていた。右肩から左の脇腹にかけて走る切り傷の跡、アイロンを押し付けられたような形の火傷の跡、肌が黒く変色してしまっている部分さえある。その姿は痛々しさを超えて、もう悲劇そのものだった。
胸がざわついて、頭に血が上る。視界が端から赤く染まって、青も土方も少しずつ塗り潰されていく。
誰が、こんなことをした…?
「…さ、かた?」
土方の呼び声で、我に返った。急いでシャワーを止め、傍に膝をつく。ズボンが濡れるが、もちろんそんなことは今この世の何よりもどうでもいい。
「大丈夫か?」
「…見ん、な…たのむ…こんな、穢い…」
「…俺は、お前が見せたくないものは何も見ねェよ。だから、安心しろ」
起き上がった土方を抱き締めて、濡れた頭を撫でる。震える身体からは石鹸の匂いがして、それが悲しかった。土方はいつも、どんな思いでこの身体を洗っていたんだろうか。穢いと鏡を見る度に思って、人知れず心まで傷付いていたのかもしれない。そう考えるとやりきれなかった。
「…俺は、何があってもお前の味方
だから。何が相手でも、護ってやるから」
「…やめろよ…そこまでする価値、ねぇ…」
「俺にはある。だから…もっと、辛いときは頼ってほしい。その方が…安心すんだよ。理由聞いたりはしねェからさ」
「………」
ひたりと、背中が濡れた。土方の腕が回されたのだ。肌に纏わりつく水滴は、もう冷えてしまっていた。これでは風邪をひいてしまう。
「寒ぃんだろ?出よう」
「いやだ…」
「嫌って、風邪ひいちまうぞ?」
「風邪ひきゃ、さすがに寝れんだろ…今回はもう疲れた…」
自嘲するように土方は言った。本音を話してくれたのが嬉しくて、不謹慎にもにやけてしまう。
弛んだ顔筋を引き締めて、密着していた身体を少し離した。
「でもやっぱ、とりあえず出ようぜ。そんな状態で風邪ひいたら永眠までいっちまいそうだし」
冗談めかすと、土方も少し笑って、そうだなと小さく頷いた。