話(高校生連載)

□空を崩す、権利があれば
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「どうかしたか?」

「…」

こいつを今抱き締めて、好きだと言ってしまおうか。

見放され置いて行かれるのは、もう嫌だ。それだけが、はっきりしていた。

「なんか、あったのか?」

柔らかな季節を纏うこの身体に触れれば、俺もあの冬の日から脱け出すことが出来るかもしれない。

手を伸ばす。すぐ傍に土方はいる。きっと、今ならまだ拒まれないだろう。最初は驚かれるかもしれない。冗談は止めろと怒るかもしれない。それでも最後は幸せそうに、春の化身のように笑んで、俺の言葉を受け入れるはずだ。

「…高杉?」

掴まれた腕を見て、それから土方は丸めた目で俺を見やった。さっきのお返しに笑ってやろうかとも思ったが、実際そんな心の余裕などなかった。黙って、細い腕を握る力を少し強める。

「…」

「…」

それ以上、何も出来なかった。

好きだと言って抱き締めれば、俺は一時の安らぎを得られるだろう。だが、それからどうするつもりだ?どうしたって俺は、土方の想いに本当には応えられない。糠喜びさせて傷付けて、結果的には俺もこいつも辛い思いをするだけじゃないか。

あまりにも馬鹿げた選択だ。一時の気の迷いにしろ、愚かすぎる。自己嫌悪に陥りそうだった。

「無理、すんじゃねェぞ…」

手を離す。

「…ありがとな」

曇りのない土方の笑み。見るのが辛くて、視線を空へ放る。

雲は停滞してほとんど動かない。風は相変わらずささやかな力で肌を撫でていく。

土方が僅かに体を動かし、距離を詰めてきた。気取られないように小さく、安堵の息を吐く。

まだ、俺は独りじゃない。
それでもいつか、進歩のない俺は見放され、置いて行かれるのだろう。それはそう遠くない未来のことのように思えた。

今この瞬間、空が落ちてくればいい。これ以上事態が悪化する前に、世界など終わってしまえばいい。

何の解決にもならない妄想に囚われる。

そんな情けない思考を知らぬ土方の、口笛の音が高らかに響いた。







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