話(高校生連載)

□ホップステップ
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予備校の帰りにコンビニで立ち読みをしていると、旦那からメールが届いた。

『プレゼント買った?』

簡潔な文章から始まるそのメールは、スクロールをしなければ読みきれないほど長かった。いつものことだ。あの人は話す時と書く時の言葉の区別がない。昔から国語が大の苦手で、小論文なんて書かせた日には最終的にまったく関係ない話に行き着くのが常だった。読み手のことを考えず、とりあえず話したいことをそのまま書くのだ。その日なにがあったかを親に報告する子供みたいに。

『俺迷ってんだよねー。
長く使えるようなもんがいいんだけど、やっぱ時計あたりがハズレもないしいいよな?それか財布。あ、被ってねえ?
でも本音言うと指輪あげてえんだよ。さすがに引かれそうだから今回は見送るけど!
つーか土方の指すげー細いんだよな。白いし。あげる時は一緒に店行かねーと駄目だわ。でもなんか緊張するよな、そういうの!想像しただけでドキドキするわー。
んであとはもちろん旨い飯たっぷり食わせてやろうと思うんだけどさ、買い出し付き合ってくんね?
3日とかって予備校遅くまであんのか?
あー土方いま隣で本読んでんだけど、マジで可愛い。俺毎日よく耐えてると思う!
つーわけでよろしく』

長い。
本当に長い。しかも半分くらいどうでもいい。なんなら添削して三分の一くらいにしてやりたい気分だった。ちょうど最後の授業が現国だったせいもある。

美しくもなく、読みやすくもない。感情も欲望も剥き出しの、飾り気のない言葉たち。世の中のほとんどの人間は価値を見出だすことなく、途中で読むのを止めるだろう。決して教科書には載らない文章だ。

それでも、土方さんへの想いと精一杯誕生日を祝いたいという気持ちは伝わってくる。もちろんそんなのはメールを読むまでもなく知っていたことではあるが。

冗長な文章の中から返答を必要としている部分だけを脳内にピックアップし、素早く返信メールを作成する。せっかちなあの人のことだからきっとうずうずしながら待っていることだろう。準備を急いだところで誕生日が早くくるわけでもないのに。本当にアホな人だ。

打ち終わったメールに一度目を通し、送信のボタンを押した。内容量は旦那のメールの五分の一くらいだ。というか三行だ。素っ気ないようではあるが、それがいつものパターンだった。

携帯を鞄にしまい、顔を上げる。夜の闇を透かして鏡の力を持ったガラスの窓に、やたら嬉しそうな自分が映っていた。






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