話(高校生連載)
□落下、防ぐ術なく
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迎えにきた高杉に朝から連れ出された。誕生日プレゼントを買ってくれるのだという。
まだ店は軒並み開いていない時間だから、駅前のファストフード店に入って時間を潰していた。
「何が欲しい」
「…いや、特には」
「ざけんな。買ってやるって言ってんだから考えろ」
祝う側の態度にしては偉そうだが、高杉はそういう男だ。これでも大分気をつかってくれているのだと思う。
休日のこの時間に起きて、しかも喋っている高杉なんて相当レアだ。これを見れただけで生まれてきた甲斐がある、なんて思ってしまう。それくらい俺は浮かれていて、気を抜けば口笛を吹き始めてしまいそうだった。
「…不味ィ」
一口飲んで顔をしかめ、高杉はコーヒーカップをテーブルの端に避けた。チェーン店のリーズナブルなコーヒーは口に合わなかったらしい。
そんなに邪険にするほどかと思って続いて飲んでみたが、たしかに美味いとは言えなかった。俺は大して舌に自信なんかないが、深みみたいなのが足りない気がする。値段と照らし合わせれば妥当な味なのかもしれないが、これなら家で飲んだ方がずっと良いだろう。
「思い付いたか?」
「いや、まだ」
隻眼に不機嫌な色が宿る。色のついた湯のようなコーヒーをもう一口啜り、それに気付かないふりをした。
欲しいものなんて、思い付かない。本当に望んでいるものは金でどうにかなるようなものじゃないし、そもそももう俺は手に入れている気もする。こんな風に皆に祝ってもらえる。高杉が、一緒にいてくれる。それだけで充分だ。これ以上を望めば罰が当たりそうで怖い。
そんなようなことを伝えると、高杉の瞳が揺らいだ。表情は変わらないのだが、目だけが落ち着きを無くしてテーブルの上をさ迷っている。
「貧乏性が…」
高杉はそう呟いて、さっき避けたカップに手を伸ばした。細い指が白い取っ手を握る。持ち上げられたカップの縁が高杉の唇に、触れた。なんてことはない仕草のはずなのに、俺の目は釘付けになる。
「…やっぱり不味ィ…」
小さな丸テーブルの向こうで、高杉は伏し目がちに舌を打った。