話(高校生連載)
□開城の音
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屋上に辿り着くと先客がいた。見慣れた天パ頭はいつもより膨張しているように見える。湿気のせいだろう。以前雨の日にぼやいていたことを思い出す。
近付いて行くと、頭を抱えて俯いていた坂田は顔を上げた。曇っていることを差し引いても暗い表情だ。死んで腐った魚の目をしている。救いようがない。
「辛気臭ェ面だな」
「…うっせ」
返ってきた言葉にも覇気はなかった。もう一ヶ月以上こんな状態だ。最初こそ新鮮な姿とも思ったが、いい加減見飽きたし聞き飽きた。最近では梅雨に入ったことも手伝ってただただ鬱陶しい。
いつまでぐだぐだと落ち込んでいるつもりなのか。呆れと苛立ちを露骨に含んだ視線で見下ろしても何ら手応えはない。
「ぶん殴ってやろォか?」
「…おう…頼む」
「ンだよ、それ」
本気で呆れ返った。こいつは馬鹿だ、頭が悪いにも程がある。これは外見以上に中身が腐っているんだろう。重ねて思うが、救いようがない。
拳ではなく蹴りを入れてみた。といっても小突く程度だ。上履きの裏が膨張した髪に沈み、隠された表面に当たった。足蹴にされたとあればさすがに怒りを見せるだろうと、そのままの体勢で数秒待った。
「そのまま…割ってくれよ、俺の頭…んでさ、お前が土方を幸せに…」
「ふざけんな!」
反射的に足が動く。お望み通り、とはいかないが頭部にやや強めの蹴りをお見舞してやった。
「…足りねェよ、魔王」
挑発的な呼称。一層乱れた髪の奥から、一対の濁った光が真っ直ぐ射してきた。
どうやら、喝入れが少しは効いたらしい。
「それはテメェの頭だろ」
迎え射つように上から睨み付けてやる。嘲笑うような笑みも口許に添えた。挑発の重ね技だ。これで立たないなら、もう見捨てて帰ってやろう。
「殺して欲しけりゃ本気で来やがれ、白夜叉さんよォ」
そう言うのと同時に、全力で蹴りを繰り出した。
それが、開戦の合図だった。