MaiN S
□熱 [中]
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枕元にある時計の針が丁度12時を指した頃。サスケは深く息を吸い込んだ。
この部屋には窓がない。ただ白塗りの壁が四方を囲い、天井にある蛍光灯は間接照明で淡い色を放っている。室内にあるのはベッドとサイドテーブルにソファー。
この部屋に隣接してまた別の部屋があるらしいが、今回はこの部屋でいいらしい。
正直な話。気乗りしない。
しかし、命令であるのなら従う他ないのも事実。
ベッドに腰掛けどうにも居心地が悪い部屋を見渡すも、ほとんど何もない。
ただ一つのことを目的としたこの部屋は里の忍の中でも限られた者しか知られていないのだとか。
久しぶりに体調を崩し、数日寝込むことになったが兄の看病のお蔭で現在の体調は上々だ。
また新しい任務で呼び出されたのだろうと思っていたが、コチラの仕事を言い渡されるとは思いもしなかった。
忍が請け負う仕事は多岐にわたる。川の掃除や犬の散歩から始まり機密情報の取得や諜報、暗殺など様々。
忍の質、階級によって、又は適性によって任務が振り分けられ、この里の忍はそれに従事する。
今までいくらでも修羅場は乗り越えてきたし、戦闘タイプだと自負していた。それなのに、言い渡された内容はあまりにも普段の内容とはかけ離れている。
この仕事はほぼ戦闘とは真逆の質だ。
言葉巧みに相手につけ込み、時には自身すら利用して相手に付け入る。情報を奪うか、ときたま暗殺もあるとは聞いているが、殆どは前者にのみ利用する術。
他人に媚を売るのはとことん不得手な自分が何故こんなことを?
浮き上がった疑問をそのまま口にすれば、返ってきたのは単純な答え。
「お前の顔なら好みの奴はいくらでもいる。後はお前の演技次第だ。しっかり学んで来いよ」
里長はほら、と顎で指して退出するように促す。
そして、五代目のそばで待機していた暗部の一人に連れてこられたのがこの部屋だ。
この仕事には任務に就く前に仕込みがあるらしい。指導員は後で来る、そう言い残して去っていく暗部の後姿を見送ること数十分。
カカシのお蔭で待つことには慣れてはいるが、さすがに手持無沙汰だ。
これから使用するであろうベッドに目をやり再び重い空気を外に吐き出す。
「帰りてぇ」
なんとなしに呟いた本音は誰の耳にも入らなかった。
本人を除いては。
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