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□桜舞う夜は君の幸せを祈って
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ライトアップされた桜が、風に舞い散る。



ひらひらと舞うその様が――――宇宙で見るGN粒子の煌めきを彷彿とさせて、懐かしささえ感じた。



「綺麗だな」



刹那は傍らに座り、桜に瞳を奪われているティエリアに声をかけた。



「…ああ。つい見とれて時間を忘れてしまう」


ティエリアは桜に目を向けたまま――桜から目が放せないようだ―――応えた。



風がまた花びらをさらってゆき、刹那は傍に座っているティエリアまでさらわれてしまうのではないかとふと不安になる。

(酔いが回っているな…)

自分らしくない、と刹那は苦笑した。


「こーら。そこ、何イチャイチャしてんだよ」



先程までライルとアレルヤで飲み比べをしていたニールが缶ビールを手に二人の間に割り込んでくる。



「イチャイチャなどしていない」

ティエリアがムッとして返事をすると、ニールが締まりのない顔で抱き着く。


「怒るなよーティエー」


「…酒臭い……」


ティエリアが眉間の皺を深めていると、ニール以上に出来上がっているライルが割り込んでくる。

「兄さん、ティエリアを一人占めするなよ」


「お前だってさっき手ぇ繋いでただろー」





「……もう、二人ともまだ勝負の途中なのに。またティエリアを取り合ってるのかい」

やれやれと笑いながらアレルヤがやってきた。酔っ払いの二人に比べてこちらはアルコールに強いらしくケロリとしている。
ティエリアの事になると際限なく張り合う双子を横目に、刹那が「奴らなりのコミュニケーションなんだろう」と口元を緩めた。



「大変だねえ、ティエリアは。寒くない?温かいの買ってきたよ」



酒を好まないティエリアに、アレルヤが自販機で買ってきたホットココアを渡す。
それを笑顔で受け取り、ティエリアはまだコミュニケーション中らしい双子に視線を移した。




「………大変だなんて言ったら罰があたってしまいそうだ…。ニールとライルが傍にいてくれて、想ってくれて―――時々、こんなに幸せでいいのかと恐くなる…」




そう言ってティエリアは冷え切ってしまった白い手で温かなココアを握りしめた。

ああ、綺麗だなと刹那は思う。

桜も綺麗だが、それに負けない位に綺麗なのだ。

思えばイノベイドと呼ばれる彼等は皆、美しい容姿をしていた。
けれどティエリアの美しさは彼等とはまた違う。
内から輝き出すような混じり気のない―――美しさ。





その彼が『幸せでいいのか』と言う。


ニールがいなくなった後、彼の苦悩をずっと見てきた刹那は言わずにはいられない。



「………いいんじゃないのか。幸せになる権利は誰にでもある」
(幸せになって欲しい………いや、お前は幸せになるべきなんだ)



刹那の言葉にティエリアは「ありがとう…」と柔らかく笑んだ。


「―――綺麗だな…」


「……………ああ」




刹那の呟きが自分に向けられているとも知らず、ティエリアはまた桜を見上げた。
そんな彼を刹那は見つめる。




ずっと、見ていた。



痩せたその身体で最も重厚な機体を操り、ニールを失ってなお―――ただ一人残されたマイスターとして組織を立て直した彼。


一人で痛々しい程に頑張る彼の姿を見て、自分が守ってやらなければと思った。


そうして、見守ってきた…。


もしかしたらライルの様に望めば手が届いたのかもしれない。もしかしたら。
けれど、しなかった。



「アレルヤもあまり飲みすぎはよくない」


ティエリアに言われてアレルヤがにこりと笑う。

「んー、僕は超兵だからねえ。アルコール全然効かないんだよねえ」


「そうか。超兵というのはアルコール耐性も強いんだな。今夜は刹那も随分飲んでいるようだが……」






ずっと――――触れてみたいと思っていた紫紺の髪に、花びらが落ちているのを刹那は見つけた。


誘われる様に手を伸ばし、花びらを摘む。


少しだけ触れることの出来た髪は、想像以上に柔らかくて。




「刹那、君の髪にも桜が沢山落ちているぞ」



ティエリアが笑いながら刹那の髪を撫でて幾つかの花びらを落としてやった。




「ああ…」




眩しいものを見る様に、刹那は目を細めた。



ずっと見守る。
そうすることを自分で選んだ。




「ティエリアー」


刹那曰く『彼等なりのコミュニケーション』―――を終えて更に酔っ払った双子が、再びティエリアの両脇に陣取った。
呆れながらも嬉しそうに笑うティエリアを、刹那もまた嬉しく思う。






これからも見守っていきたい。





風がまた強く吹く。

桜が舞う。

GN粒子でもなく、闘いの光でもなく、自然の息吹が。

「―――命の光だ」


ティエリアがぽつり、呟いて。




ニールとライルが「そうだな」と答えた。




知らず揃ってしまった声に、思わず目を合わせる双子をティエリアは可笑しそうに眺め―――





刹那はそんな彼を満ち足りた想いで見守っていた。





(桜舞う夜は君の幸せを祈って)








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