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□まだ恋には届かない
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憎らしい。
妬ましい。
俺の努力を軽々と飛び超えてしまうその才能が。

そしてなおも更に上へ上へと向かう貪欲さ。




毎日どんなに無下に断っても「サーブを教えてくれ」とキラキラした眼差しを向けてくる彼。




喉から手が出る位に俺の欲しいものを持っているというのに、それでもお前は俺から何が欲しいって言うの。
俺がお前に何をやれるって言うの。






「絶っっ対サーブなんか教えてやんないんだから!バーカバーカ!」


俺がそう言って舌を出したところで、飛雄は全くめげやしないのだ。

次の日にはまた瞳をキラキラさせてサーブ教えろって言ってくるのだ。



例えば飛雄が天才じゃなかったら
バレーなんてやっていなかったら




もっと単純に飛雄の事を可愛いと思えたかもしれない。
あのキラキラした瞳を、もっと見ていたいって思えたかもしれない。







「飛雄、また背ぇ伸びた?」
俺の問いに飛雄はさして興味なさそうに「ウス、」と返事をした。


息が白く浮かぶ夜道を二人並んで歩く。

俺は塾からの帰り道、飛雄は部活帰り。


最初は約束をしたわけでもなく、たまたま二人帰る時間が重なっただけだった。



今だって約束をしたわけではない。

塾からの帰り道、たまたま飛雄に会って、こうして自然と二人、並んで歩くことになる。





部活を引退したので週に何回かのこの時間が、今では飛雄と接する唯一の時間になっていた。



あんなに憎たらしかった天才。
勿論今だって憎たらしいけれど、不思議と彼とのこの時間は嫌いじゃなかった。




「そう言われてみれば確かに及川さんとの目線が近くなった気がします」

改めて気付いた、と言うように飛雄は目をキラッと光らせた。

あ、また―――この瞳。


キラキラと目を輝かせて少し嬉しそうな顔をする飛雄は、やっぱり可愛いくてそれ以上に憎たらしい。



バレー部入部当初に比べて確かに、飛雄は背が伸びた。
あの頃小学生と大差なかった身体は、随分と頼もしくなり、今では俺との身長の差は頭一個分位しか差がない。





「お前、そんなに俺を追い越したいの」


「当たり前です!だって、及川さんすげえ強いです!追い越せるなら追い越してみたいです!」


また一際輝く、飛雄の瞳。




真っ直ぐ。単純。それも馬鹿が付く位。

俺がどんなにお前の持つものに焦がれているか、お前はちっとも気付かない。
気付かないから、そんな残酷な言葉吐けるんだろう。
俺の気持ちなんて、これっぽっちも知ろうともしないで。



全く腹立たしい―――俺はまるで八つ当たりでもするかのように、飛雄にキスをした。






「!?」




俺にキスをされて驚き固まる飛雄。





キラッとした瞳に今は戸惑いを浮かべて。





俺のこんな妬みも羨望も何一つ知らない真っさらなこの瞳が、どうしようもなく、憎たらしくて、可愛いくて仕方がないのだ。











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