比翼連理
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「花火ってさ、キレイだけど一瞬で消えちゃうから切ないよね…」
病室の窓から花火を眺めていたとき、ふと花がそう言った。
細い肩が小さく震えている気がした。
彼女の体に異変が起こったのは去年のことだった。
授業中に突然倒れ、運ばれた病院では過労と診断された。
しかし、それ以来こうして度々体調を崩すことが多くなり、大きな大学病院で精密検査をするも、原因は不明。
何もかもがわからないまま、しかし彼女の体調は日を追うごとに着実に悪くなっている。
彼女も、己の体に起きている異変に気づいていないはずはなかった。
なす術もなく、ただ体を蝕まれ弱っていく彼女の目に、あの美しい花火はどう映ったのか。
消えていくあの輝きに自分を重ねているのだろうか。
そう思うとたまらなくなって、熱帯夜の蒸し暑さにも構わず肩を抱いた。
元々小柄だったけれど、また少し痩せた気がする…
「嵐…?」
「大丈夫や。消えたかて、来年もまた一緒に見れんねんから」
大丈夫、大丈夫。
花を安心させるためにそう口にしながら、自分に言い聞かせるように同じ言葉を胸の内で何度も呟く。
花は消えたりしない。
今だってほら、花は確実に俺の腕の中にいるじゃないか。
花の存在を確かめるように腕に力を込める。
「来年も再来年もずーっと先も…一緒に見よな?」
見えない未来にあえて約束を取り付けた。
なぁ、ずっとそばにおるから。
だから、だから、
頼むから独りで泣かんでや…
「…うん」
小さく頷く愛しい存在を隠すように腕の中に閉じ込めて空を見上げる。
花火は消えてしまうから、星に願おうか。
どうか、どうか花を連れていかないで。
消えない瞬きに思いを託し、今はただ夜空を彩る打ち上げ花火の美しさを記憶に焼き付けようと目を凝らした。
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