比翼連理

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「別れよう」


「っ、」


頭を殴られたような衝撃で、言葉も出なかった。
病室の窓の外に視線をやったまま、花は静かに言った。


「好きじゃなくなったから、もうここには来ないで」


「、ま、待て、なんやいきなり」


喉が詰まって息が苦しい。
きっと本心なわけがない。
けれど胸が痛くてたまらない。
君は、何を思ってそんなことを?

向こうをむいたままの花の横顔は、長い髪で隠れて表情が見えない。


「花、」


「別に、ただ好きじゃなくなっただけ。いいから帰って」


本心、なのかもしれないと思うほど、なんの感情も含まないような声。
けれど、膝の上で組まれた手は、白くなるほど強く握られていた。


「…花」


そっと近づくと、ビクリと肩が震えた。
構わずに触れたその手は、やけに冷たかった。


「なぁ…ホンマのこと、話して?」


壊れてしまいそうなその心、俺にも見せてほしい。







辛抱強く待ち続けると、沈黙を守っていた花がようやく口を開いた。


「、嵐は、……私と、一緒にいない方がいいよ」


頑なにこっちを向かない花。
しかし、肩はすでに震えていた。


「嵐には、私より相応しいコが、いるよ。あのコなら、きっと嵐を幸せに、」


最後まで言わせるのは耐えられなかった。
小さな体を引き寄せて強く抱き締めると、遠慮がちにではあるが服の端を掴んできたからホッとした。

あのコと言われて思い浮かぶのは、手紙を渡してきたあの女子だ。
見られていたとは知らなかったが、花の気持ちを考えると、なんの罪もないそのコを恨みたくなる。
それほどまでに、花は俺の特別だというのに。


「おまえがええねん」


情けなく声が掠れて、だけどどうにかこの想いを伝えたくて、更に強く抱き締めた。


「花やないとあかんねん」


伝われ、伝われ、伝われ。
俺を、手放すな。


「花と一緒やないと幸せになんかなれへんねん」


彼女はとうとう泣き出した。

あぁ、泣かせてごめんな。
せやけど、泣いてくれて嬉しいで。


「思うたこと、なんでも言うてや?我慢されると俺も辛いねん」


なんだって受け止めたるから。
そう言ったら、花は俺にぎゅっとしがみついて、小さく頷いた。


俺の、愛しいひと。

絶対離さない。

きっと最後まで側におるから。



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