比翼連理

□春の夢路 1
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果たせなかった約束と、涙。



あれは昔の記憶なのだろう。

小さい頃からよく見る夢。

白いベッドに横たわる髪の長い少女の手を、側に寄り添う自分が握っている。

そしてその指に嵌められた指輪に恭しく口づけて、こう言うのだ。


『生まれ変わっても必ず見つけるから』




小さい頃は意味がわからずに、起き抜けに泣いてしまうこともよくあったけれど、成長するにつれ、俺はあのひとを見つけるために生まれたんじゃないかと思うようになった。

けれど、あの断片的な夢から何かがわかるわけでもなく、見つかるあてなどないままだった。



***



「翼!早く早く!」


「はいはい」


春。
満開の桜並木を二人して歩く。

夢の中の少女を見つけられないまま大人になった俺は、やはり夢は夢だと思い始めていた。

前世の記憶なんて自分が勝手に思い込んでいただけなのだと。



「あそこに座ろ?」


「りょーかい」


俺の手を引いてはしゃぐ理枝。
彼女の指には、俺が去年贈った指輪。

来月、俺は彼女と結婚する。
だから、あの夢のことは忘れようと決めた。
今の俺が愛しているのはこいつだけなのだから。




「なかなか見事やなぁ…」


ベンチから見上げた桜は、並んだ桜のなかでも一際大きかった。


「満開だもんねぇ…」


同じように隣で見上げる理枝も、しみじみと呟いた。


満開の桜は、散っていくのが運命。
ひらひらと花びらを落とすその姿は、忘れたはずのあの少女を思わせた。




「桜はさ、キレイだけどすぐ散っちゃうから切ないね」


「、そうやな」


なにか、既視感を覚えて返事が一呼吸遅れた。
あれ、似たようなことを誰かが言っていたような…?

いや、誰だって言うよな、それくらい。


そうやそうやと一人で納得している俺に、理枝は桜を見上げたまま言った。


「花火に似てるね。キレイだけど、一瞬で消えちゃうから切ない」


花火、
そうだ、花火。
今まで見たことのない過去の記憶らしきものが、急に頭を駆け巡る。



『花火ってさ、キレイだけど一瞬で消えちゃうから切ないよね』



そう言ったのは、確かにあの少女だった。

偶然、か?


「……理枝…?」


「やっと、わかってくれた?」


振り返った彼女の笑顔が、記憶の中の少女と重なって。

俺は衝動的に駆け寄って、力一杯抱き締めた。



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