【long】

□親愛
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手塚家の朝は、




「たるんどる!」

国一おじいちゃんの怒声から始まる。




「たるんどるぞ国晴!」

一階から聞こえてくる怒鳴り声、続いて部屋のドアをコツコツコツと叩く音がした。

「遥奈、どうかしたのか?」それからすぐ国光の声がして、

「ん、 …うん、何…?」

どうかもどうもこうも何も… なんて、一時の間を置いて、

「……」考える間もなく、

「Σやば!!」自分の置かれた状況下に我に返り飛び起きた。

「えっ、……ええ〜、 うそ…」

国一おじいちゃんの怒鳴り声がした、多分また、国晴パパが何らかの難癖をつけられて怒られているんだろう… それから国光が、

国光が私を呼びに来るなんて…!

急速に意識が冴えていく、ヤバいヤバいヤバい!何から手をつけたらいいんだろう!

そう、その日私はうっかりと寝坊をしてしまって。まさかの国光に起こされるという始末。
とりあえず身につけたTシャツ短パンを脱ぎ捨てて、手短に制服に着替えて急いで一階に向かったのだった。




手塚家の朝は早い。




階段を下りて、パタパタと駆け急いだダイニングの入口に仁王立ちの国一おじいちゃんと、それに阻まれて立ち往生している国晴パパの姿があった。

「国一おじいちゃん、国晴パパ、おはよう!」
「ああ、おはよう」
「む… お早う遥奈、今朝は随分と遅い起床のようだが」
「……っ、」

何事もなかったようにやり過ごそうとしたけれど、チクリと痛いところを突かれてドキリとしてしまった。
やんわりと笑顔を見せた国晴パパと対照的に、国一おじいちゃんが厳しい顔を私に向ける、

「え、ああ… そう?かな…」

何事もなかったようにやり過ごせるはずもなく、その強烈な威圧感に萎縮してしまった。

「父さんが早すぎるんですよ」

そこに、空気を読んでか読まずか、間違いなく後者の方で国晴パパが言って「ねぇ」と私に話を振ってきて、

「え!? あ、あ〜…」

同意を求めているのだろう、何でまたこのタイミングで… 何て言えばいいのか、私に振られても困るんですけど!

「そう、だね… でも今日は私もちょっと寝坊しちゃったから…」

上手く返す言葉もなく、うっかり白状してしまったことに気付くも遅い、

「何じゃと?」国一おじいちゃんの眉がピクリと動いたのが分かった。

「まさかお前、夜更かしなんぞしておったのではあるまいな」
「え… まぁそうだけど「たわけがァァ!!!!」
「ぅわ…!」

寝惚けた頭にキンと響く。怒鳴り声の後の空白の時間に、庭の鹿威しが遠く…遠く聞こえた。

「遥奈、よく聞きなさい」
「うん」
「年頃の娘が夜更かしなどと…」
「うん…」

 夜更かしなど美容の敵であろうが」

「うん…?」
「幼少の頃より何度も何度も口を酸っぱくして言っておるだろうが。たるんでおるぞ!」

さらに国一おじいちゃんは続けた、

「それにその腰巻き、」

こ… 恐らく制服のスカートの事を指しているんだろう、強面の、その険しい顔で腰巻きとか言うもんだから、私は叱られているのに思わず吹き出しそうになってしまった。

「短すぎやせんか」
「え、え?」
「そんなことでは良からぬ輩につけ狙われ兼ねんぞ、嫁入り前の娘が節操のない「いやこれはこういうものだから」

別に、朝一番でやり合おうなんて思ってはいないけど。
うっかり言葉を返してしまってまずい顔をした私に、国一おじいちゃんが再び追撃の口を開く… その前に、

「あ、朝ご飯のお手伝い!遅くなっちゃう!」

「気をつけるから、大丈夫!」それで納得させたわけじゃないけれど、納得させようとにこりと微笑んで。もっともらしく理由をつけてダイニングへ逃げ込んだ。

「おはよう彩菜ママ」
「おはよう遥奈ちゃん」

「おはよう、」と、すでに食卓へ座る国光のそばへ近寄る。

「国光。ねえ、聞いてたでしょ?何で助けてくれないの?」
「ああ、おはよう。 すまないがそれはできない」
「…何で?「何たる事か国晴!」

あまりに心無い言葉に私が顔をしかめて、どういうことかと問い詰めようとした時、国一おじいちゃんの声が割って聞こえた。
私がかわした叱咤の矛先は、どうやら再び国晴パパに向けられたようで…

その様子を気にも止めず、

「年配者の意見は素直に聞くものだ。それに…

 俺もお祖父様の意見に賛成なんでな」

やはりしれっと言ってのけた国光に、私はまた顔をしかめたのだった。


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