【long】

□友愛
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「二人ともおはよう!」

学校に着いた私達を出迎えてくれたのは、男子テニス部副部長で、部室の鍵当番でもある大石くんだった。

「ああ、おはよう」
「おはよう大石くん。今朝も早いね」
「ハハ、お互い様」

……で、私はただ国光にくっついて早めに登校してきたとかそういうわけではなくて、男子テニス部のマネージャーとしてこうして一緒にやってきた。
成り行きで始めたようなものだったけれど、一年生の頃から国光達と同じ時間を過ごして、遂に今年三年目の最後の年を迎えたのだった。

大石くんとも入部当初から知り合い、数少ない部活仲間の、戦友のようなもの。信頼できる仲間の一人だと私は思ってる。

「ネットは運んでおくから、早く着替えてこいよ」
「うん、ありがとう」

朝練の準備を先立って手伝ってくれる、とても優しい大石くんはまさに“青学の母”という通り名通り。

「お願いします」と頭を下げて、すぐさま私は女子更衣室へと駆け出した。




制服からジャージの袖に腕を通して。髪をひとまとめして扉を開けたらその先、

「遥奈先輩おはようっス」
「おっはよ〜!」

「みんなおはよう!」

眩しい朝日に照らされた仲間達の笑顔と共に、私の学校での一日が始まるんだ。




「──というわけで遥奈、」
「はっ?」

妙なプレッシャーをかけ、間近に迫る大きな影にハッと息を呑んだ。
それは朝練を終えて皆と別れ、教室に向かう時のこと。




「国光!乾くん!」

制服に着替えて更衣室を出たあと、私より少し早く着替えを終えただろう二人が前方に歩いているのを見つけた。私は軽く急ぎ足で二人に追いつくと、やや後ろで歩調を合わせる。

「あ、ごめん、何か大事な話してた?」
「いや…」

見上げれば表情一つ変えない国光と。というか乾くんに至っては肝心の目元が分厚い眼鏡に阻まれて全く何を考えているのか読み取れない。

「大したことじゃないが、強ちその推測は間違っていないな。さすがは遥奈だ、なぁ手塚」
「……」
「?」

「何でもない」とか言ってくれた方がまだいいのに、とは思ったけれど。さして気にも止めずに足並み揃えて進めれば、直ぐに三年の教室のある階にまで辿り着く。

「じゃあ後のことは任せてくれ」
「ああ」
「じゃあね、国光」

階段を上がって一番手前、そこで私達は国光と道を分かれた。
家でも部活でも共同生活な私と国光だけど、それ所以にクラスだけは三年間別々だった。国光は1組、私は11組で、私は青学テニス部のデータマンこと乾くんと同じクラスだったりする。そして──

「実はここだけの話… 俺が日夜研究に開発を重ねた結果、いや、成果が出たと言うべきか、」
「?」
「偶然の産物ではあるが、美容効果に期待の持てるスペシャルドリンクが出来たんだ。これを飲めばあらゆるお肌の悩みも即効解決!…というわけで遥奈、」
「はっ?」




話は冒頭に戻る。




「試しに一つ飲んでみ「いっ、いいいい、要らないです!」

喜々と口を開いた乾くんの言葉を遮って、私はきっぱりと拒否を試みた。だって乾くんの『特製ドリンク』は、残念ながら当たりが出そうな気が全くしない。
日夜研究に開発…とか言っていたけれど、 
その類を口にした人達の悲劇を私は知っている。

テニスバックから取り出した、明らかにヤバそうな色の何かが透けて見えるボトルを手に、乾くんは続けた。

「まあ、そう言わずに。手塚もぜひ遥奈に飲ませてやって欲しいと言っていたぞ」
「え?…国光が?」

唖然としたというか、愕然とした。

“夜更かしは美容の敵”

そう言った今朝の国一おじいちゃんの姿が脳裏をよぎる。それでか…

余計なお世話だよ国光め!

聞いていた話を真に受けたのか、やはり国一おじいちゃんの影響が強いらしい国光の思考回路は理解不能。何考えてんだと恨みながら、

「私っ、先行くから」
「ん? ま、待てっ」

私は乾くんを置いて、教室真っしぐらに走り出したのだった。


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