【long】

□無辜
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私は頑固で強情だ。それに、ものすごく可愛くない。

あれから結局、自分から国光に連絡をとる事はなく。国光からも、 まぁ特に用もなければ連絡がなくて当然だろう、そんな都合が良い話。

だってもし私が電話をかけたとして、話をするとして… 私は国光に何と言ったらいい?
肩の治療に専念すべき国光を、単なる私の都合、わがままで困らせるような事なんてできるわけなかった。

国光は一人で頑張っているのに…


「──そうじゃ国光、遥奈に…

 いや、 遥奈、国光に…」


居間でぼんやりとテレビを見ていた私の、耳に何となく会話が入ってくる。
相変わらず孫贔屓な国一おじいちゃんがまさに国光と電話でやり取りをしている最中、受話器を離して、

「代わるか」と言い掛けて、多分私の気持ちを察したんだろう「何か、言伝てはあるか」と言葉を変えた。

「ん? ううん。ないよ」

小さく首を振って小さく笑う、

「早く戻ってきて」って言って?
「寂しいから」って… 言えるものなら。言えるはずもないから、

「……ああ、お土産はやっぱりスイカがいいって伝えて」素っ気なく。強かにその場を離れた、私は最上級に可愛くなかった。




巡るチャンスを潰してそうするのは、強かな思い。

思い上がり。強がり、それも分かった上で意地を張る。だけどそれは決して後ろ向きなわけじゃなくて…




「昨日手塚と電話で少し話したんだ」
「えっ?国光と?」
「ああ、」

スミレちゃん、大石くんと今後の予定、大会に向けてのミーティングをして。帰り道に、大石くんと家路に向かっている時、

普通に「電話した」と言った大石くんが少し羨ましく思えた。

「手塚が抜けて二回戦だからな。オーダーの相談を少し… よろしく頼むと言っていたよ。それと、

 何か変わった事はないか、って」

“変わった事”

大石くんの言う、国光の一言一句。その言葉にどきりとする。
そういう意味合いではないだろうけど、

変わってしまったのだろうか… 自覚し始めた私の気持ちを、知るはずもない国光が、まさかカマをかけるような物言いをしたんじゃないかって…

「肩の方はまだ何とも… まだ変わりないようだな」
「そう… 国一おじいちゃん達にはあんまりそういう事、言わないみたい。私も、何も…」

何も言ってくれないから知らない、と。

聞きもしないんだから当たり前なのに。
卑屈にしてみせたり、とかはしないけど深い意味はない。それに大石くんは困ったように笑った。


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