【long】
□金蘭
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七月某日、快晴。
関東大会、開幕──
青学対氷帝、共に東京代表の看板を背負った強豪校同士の戦いは、今大会屈指の好カードとも言える組み合わせだった。
緒戦ということもあって意気込んで挑んだ試合だったけど、 青学にとっては波乱の連続、予期せぬ事態の連続だった。
試合前のアクシデントで腕を怪我してしまった大石くんが欠場、ピンチヒッターとして出場した桃と英二くんの急造コンビ、ダブルス2でまず一勝して、乾くんと海堂くんのダブルス1は残念ながら敗戦。
氷帝樺地くんとの壮絶な力勝負の末、腕を負傷してしまったタカさん。シングルス3は両者とも試合続行不可能でノーゲームとなった。
タカさんの意志を継いで、圧倒的強さを誇示した不二くんはシングルス2で快勝し。
ここまで二勝一敗、青学が一歩リードする形で、そして…
第5試合目、シングルス1。
全ての決着は、国光と跡部くんの大将戦へと委ねられた。
周りからより一層の歓声が聞こえる。そんな中、両者一歩も譲らない熱戦が続いていた。
跡部くんがリードすれば国光もすぐに巻き返し、国光のリードも跡部くんは許さない。
さすが関東屈指の実力者、部長同士の頂上対決は互角の好勝負だ。
「遥奈、手塚の様子が…」
「うん…」
そんな中、国光は過去に負傷していた肘の古傷の影響から、無意識に肩に負担をかけていることを跡部くんに見抜かれて、思わぬ持久戦を強いられてしまった。
対して、あくまでそれに挑む覚悟をみせた国光。
攻め急ぎを誘う跡部くんにも果敢に立ち向かう。
試合開始から有に一時間半余りが過ぎても、なお変わらない拮抗した攻防戦が続いていた。
「……国光、」
国光だって当然、平気なはずがないだろう。
その体を突き動かすのは全て、
全ては青学のため。
そして迎えた第12ゲーム、ゲームカウント30-10。私は唱えるように「頑張れ」と、
部長として全てを背負って立つ国光に、小さくエールを送った。
「国光、頑張れ… あと一球…」
あと一球、
あと一球が決まれば、勝負が決まる。……はずだった、
「…っ、」
その時、
まるで時が止まってしまったかのように。勝敗を分けるここ一番の場面で、
仲間の思いを一心に背負った国光の、最後の一球になるかもしれなかったサーブが、 放たれないままその手からコートに落ちた。
どれほどの痛みだったんだろう、肩のその痛みにラケットを振り抜くことができなかったのだ。
ざわめく青学サイド、悲痛にも似た無言の叫びが意識の中で遠く響く。
私は肩を押さえる国光を、ただただ見ていた。