【long】

□金蘭
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「マネージャーをやらないか?」

そこに私を招いたのは国光だった。




「…私が?」
「ああ、」

その時の私はただの傍観者だった。
青学に入学してすぐくらいだっただろうか。国光に連れられて、男子テニス部の練習を見学することが放課後の日課になっていたんだ。

というか、一人だと迷子になるから、国光がいないと家に帰れなかったんだけど…




「すごい…」

フェンス越しに見る国光は部の誰よりも強くって、

テニスの腕前に長けているのは知っていたけど改めて、テニスの上手さ… それが、本当に同い年の中学生がするプレイなのかと正直感心しきりだった。

一年生ながら異彩を放つ特別な存在。今で言う、リョーマみたいな感じかな。

そばにいて、日々のトレーニングや会話の隙間から、国光の熱い想いを垣間見ていた。


青学に懸ける想い


彼の信念を知った、新天地での春。




「国光くんは…

 テニスが好きなんだね」

「ああ」

そう言った国光の、凛とした顔が印象的だった。
私は少し、それが羨ましくもあり、まるで光を放つような国光の姿がとても眩しくさえ思えたんだ。




まだ心から笑うことのできなかったその時の私は、

暗い海の底から、キラキラ光るその光を見上げているだけの、ちっぽけな存在だと… 自分をそう思ってもいた。










ある時、

目の当たりにした現実は、非情なものだと思った。

一年生ながらにあまりに強い国光は、上級生の一人に反感を買って乱暴を奮われてしまう。
左腕、肘を襲ったラケットの鈍い音と、

初めて聞いた叱責の声。

それは、今まで一度として私に見せたことのない厳しい表情で。その裏に失望が見え隠れしていたのを、私は見逃してはいなかった。

怪我をさせられた上に向上心のない彼らに失望した国光の精神は、退部を決意するまでに追い詰められてしまっていたのだ。




でも、それを救ったのが、大石くんと当時三年生だった大和部長だった。

共に夢を目指そうと誓った仲間と、一瞬たりとも夢を諦めたことのない敬愛する先輩の存在。

決定的すぎる二人の言葉は、国光の心を揺るぎないものへと変えた。
いつかの帰り道、国光が口にした青学テニス部への想い。私も確かに感じたから、

国光には心折れることなくいて欲しい… そう思った。


「国光くん…

 頑張ろう?」


たった一言、 その時の私にはそれしかできなかったけど、それは自分にも言い聞かせるように、

奮い立たせるように。

強く在るようにと、私は国光の前で最後の涙を流したのだった。


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