【long】

□霹靂
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「なぁ、ホントに行かないのか?」
「うん、だって…」

国光を見送るため、空港へと向かう仲間に、

「家でもしたもん」と、国光の壮行を手塚家で済ませたことを告げて。

「それにほら、三年生が一人くらい残った方がいいでしょ?」にっこり笑ってみせた。




そう、

見送りには行けなかった。




快く送り出す裏で、やはり何か思うところがあって。心に引っかかる不安の正体それが何なのか、 まだ知らない。分からない。

治療をするべきだとしたらこれは当然のことで。国光のためだからと、理解したつもりでいた。




「いってらっしゃい」
「ああ…」
「無理しないでね」

ただ笑って。

「なーんか新婚さんみたいだにゃ〜」
「クスッ、本当だね」
「…あのねぇ」

笑って、明るい顔をみせるだけ。

「国光、頑張ろうね!」

こくりと頷く国光に別れを告げて。

歩き出す、光の欠けたそのコートへ。

でも国光の意志を担う、補う光は数知れないから… 私はみんなと君の帰りを待つよ。










そう、すぐだよ、

少しの間だけなんだから…










翌日から青学テニス部は、大石新体制としてすぐに始動した。

「遥奈先輩、何とかして下さいよ〜」
「まぁそう言わないで。大石くんにも考えがあるんだよ」
「…あの糸人間にスか?」
「糸人間… 心理テストでしょ?結構おもしろかっ「無責任〜っ、おもしろがってんじゃんかぁ!」
「あはは、ごめんて」

レギュラー部員同士の相性を計る心理テストをしたり、近隣校のテニス部を招いて実践練習を行ったり、
始めのうちは大石くんが奇行に走った、と不評なようだったけど、 彼には彼なりの考えがあるんだろうし、

国光の代わりに部を担うこと、託された全てにプレッシャーを感じてもいるんだろう。私はそれを理解してあげたかったし、尊重してあげたいと思った。

何より、国光の意志をより重んじる大石くんだったから、その手助けをしてあげたいと思ったんだ。

「レギュラー陣、また集まってくれ!」
「Σうげっ!」
「遥奈先輩ー」

そう言うみんなを、

「はいはい、文句言わないの」と笑って送り出した。




「なかなかやるじゃないか、大石部長代理」

練習試合の様子を見ながら、隣でスミレちゃんが安心したように唇の端を上げて言う。

「ダテに副部長として、影から青学を支えてきただけじゃない」と、そして前を向いたまま続けた。

「なぁ遥奈」
「ん?」
「あいつらの士気を上げるのがお前さんの役目だ、

 頼りにしているよ」

ぽんと私の背中を叩いて、

「前進あるのみだ」

思いがけない言葉に心が奮える感覚がする、

「うん」と私は小さく頷いて、空を見上げたのだった。




「明日は聖ルドルフね!」
「え――っ!!!!」




そう、私達にあれこれ考えて立ち止まっている暇なんかない。関東大会、二回戦まであと少し。走り続けて行くしかないんだ。




ひたすらに前だけを見て進んでいく。

それは私もきっと同じことで。立ち止まったら全てが終わってしまうような感じさえした。

国光がいなくなったことで受ける影響は青学だけでなく、 …今はそれを気づかないまま、やり過ごそうとしているだけなのかもしれないけど…




でも私を支えるものはここにはたくさんあるから。

培ってきたもの。

だから大丈夫、 きっと笑っていられるから…


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