【long】

□片陰
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「そんな顔しないで、彩菜ママ!今日だけだから、ね?」
「…そうね」
「うん!」

優しい彩菜ママにそんな顔… せめて私だけでも心配なんてさせないようにしなくちゃ。




そう思う私は安直で、気負う事なく笑顔を見せたつもりだった。

でもそれはもしかしたら彩菜ママの為ではなく、

自分の為だったのかもしれない…




「いってきまーす」
「いってらっしゃい、気を付けてね」
「はーい」

そして私はいつものように家を出て、

バスに乗って通学路を歩いて、

「……」

一人、生徒会室のイスに座って、


一人見上げた窓からの空。


朝焼けと、薄ら青い空に欠けた月が消えそうに霞んでいく。

いつも国光と見ていた景色は、今は私一人の目にしか映らなくて、

何だかそこにいるのが自分一人であることが、とても不思議な感じがした。

「……」

不安を掻き立てるざわざわとする感覚と、一人ぼっちの焦燥感。

それは、いつかの空白を思い出させるような嫌な、嫌な感じ…


「国光… 大丈夫かなぁ」


そんな事を呟いてみても、何も応えは返ってこないんだけれど。


ここで一人で見上げる空は、あの日国光と二人、見上げた空と重なって。

あの日私の支えになってくれた国光が、

その国光がいない事で、少し…




青が胸に痛かった。




「おーい!」「遥奈〜!」
「…ん?」

目をやったその先に、見慣れた笑顔を見つけた。

「おっはよ〜う!」
「おはよう遥奈!今日も早いな」

見下ろした窓の下、英二くんと大石くんがまるで太陽みたいに、眩しいくらい私に元気を与えてくれて、

「おはよう!」

私も自然と顔を綻ばせる。

「自主練?早いね」
「まあね〜 今日は大石に付き合ってもらって、秘密の特訓なんだ〜」
「へぇ、そうなんだ」
「遥奈も仕事を終えたらコートに来いよ」
「うん!」

ともなれば… さっさと仕事を片付けなくちゃね。

資料の束に手を掛けて、ふと目をやった空席に、

いつも国光が座っていたそこに、一人密かに笑みを見せて。


「さーて、今日も頑張りますか!」


そして今日もまた慌ただしい一日が始まる。


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