【long】

□片陰
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「遥奈ちゃん、」

掛けられた声に振り向く前に隣に並んだ、

「重そうだね。持とうか?それ」

にっこりと笑う不二くんが私の手元に手を差し伸べた。

「え、ああ、平気平気」

そう言う私の手には、抱えるほどのノートと資料の束が積み重なっていたんだけど…

「今日ね、一緒の当番の子がお休みで」

「だけど大丈夫」とそれを抱え直した。

「そう?だけど…」

「遠慮しないで」殆どの冊子を手に取って。歩みを進めた不二くんが、少しだけ目を細めて言った。

「もうすぐ二回戦だね」
「うん…」

賑わいをみせる廊下で、窓からの風が頬にほんの少しの清涼感を与えて吹き抜けていく。




大会のスケジュールでいけば、滞りなく勝ち進んでいけばこれから毎週試合になるだろう、

関東大会二回戦を勝ち抜けば、多分次の相手は…




「緑山に勝ったら、そしたらきっと次は六角かな。

 佐伯くんに会いたいなぁ」

「サエに?どうしてだい?」

それに不思議そうな顔をして、

「だってかっこいいんだもん」
「現金だね… 手塚が聞いたら何て言うかな」

不二くんは意地悪な笑みをした。

「…何、って。ミーハーだとか?」

私は、そこで何で国光が?とか思わなかったわけじゃないけれど、

きっと不二くんの思惑は別にあったかもしれない、けれど知らないふりをして。

「それかくだらないとか言いそうじゃない?」

顔を見合わせて私達は笑った。

「手塚も心配だろうね、色々と」
「え?「ねぇ、今日は用事、何もないよね。一緒に帰ろうか」
「うん」

そうして調子を合わせて笑うけど、だけど時々、私は思うんだ。




不二くんはまるで何か、全てを見透かしているみたいで…

時々、怖い。




「遥奈先輩?何してるんスか?」
「あ、桃…」

その日の昼下がり、購買へと足を運んだ私は、そこでその代名詞とも言える桃と遭遇した。

「ちょうど良かった!」

名案を思いついたとばかりに桃をそこから連れ出して、

「ねぇ桃、まだお腹空いてるよね」
「は?まぁ…」

怪訝な顔の桃に「じゃあコレ」と、手にした包みを差し出した。

「…何スかコレ」
「お弁当!食べてくれない?」
「はあ?」

差し出されたその包みを手に、桃は更に不思議顔で。

「え、でも…いーんスか?」
「いいのいいの」

私は軽く笑ってみせた。

「今日は他に食べたいものがあるの。それに…」

そう、これは大事なこと。




もし、

もし中身が入っていたら、

もしも中身が手付かずのままなのが彩菜ママにバレたりでもしたら、

彩菜ママにまた余計な気を使わせちゃうもんね…




「実は私の手作りなんだけど… まさか桃、食べれないとは言わないよね?」挑発するかのようなそれに、

「へぇ、手作り… いいっスよ!そーいう事なら遠慮なく頂くっス!」

桃はニカッと笑って、そう応えてくれたのだった。


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