【long】

□片陰
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「遥奈先輩、 …昼飯、食わねぇんスか?」

購買から少し行ったところで、呼び止められて足を止めた。

「……見てた?」

その声の主、海堂くんが見やった、桃の後ろ姿を一緒に目で追って、

「今日は時間がないから簡単にね、」

「コレ」と買ったばかりのヨーグルトを軽く掲げてみせる。

「……」

それを見て、海堂くんは何か言いたそうにしていたけれど…

「じゃあ…」

一呼吸を置くとこう続けた。

「俺のと交換しませんか」
「え?」




「今日の、アロエ入りなんスよ」




連れられて行った2年7組の教室の前で、私の手に小振りなタッパーが手渡される。

「ああ、自家製の」
「そうっス」


何でだろう、

私の心情を、きっと海堂くんは知らないだろうけど。


「そんなのより全然栄養もあって、美味いスから」

その優しさ、心遣いが何だか嬉しくて、

「ありがとう」私は小さく笑って、頭を下げた。




忙しいのなんて言い訳で、実際食欲がないのかどうなのかは自分でもよく分からない。

だけど目まぐるしく廻る日々は、私を立ち止まらせてはくれないから。
私はそれに乗っかって、むしろ好都合として毎日を過ごしていくんだ。




何も考えずに、

立ち止まらないように。




「遥奈、」
「…ん、何?」
「ああいや、今日は生徒会だったな。竜崎先生には俺から伝えておこうか」
「ほんと?じゃあごめんね。行ってきます!」

放課後、慌てて教室を出る私に、

「…滋養強壮のドリンクを早めに完成させなければいけないな」乾くんは息を吐いてぼそりと呟いた。

「!?あ… 平気平気!お気遣いなくっ」

そして、後退りをしながら苦笑いとともに駆け出した私は、

そこに立つ、振り向き様の人影に気づく事なく…

「あイテっ」「わ…!」

案の定、その彼にぶつかった。

「っごめんなさい!」
「ハハ、いいよ。けど気をつけてね、遥奈ちゃん」
「ごめんタカさん」

そうタカさんに。

「…遥奈ちゃん、」
「ん?」

タカさんは少し神妙な面持ちで。受け止めた私の体から腕を放し、

「…あのさ「遥奈〜!ちょっと来て〜」
「あ、うん。ちょっと待ってて!…で、どうしたの?」
「いや、えーと… いいよ。やっぱり何でもない」

言いかけた言葉を飲み込んで遠慮がちに苦笑いをした、

「今日は部活には出れそうかい?」
「? うん」
「そう、じゃまた後でね」
「うん…」


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