【long】

□片陰
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どんなに毎日が忙しくても、悲観することなんか何にもない。

国光も頑張っているんだから、私も負けないように在ろうと思っていた。

「遥奈っ」
「遥奈先輩、生徒会室行きましょう!」
「…ん、そうだね」

それに、

私には私の名を呼んでくれる仲間がたくさんいるし…




ひとりじゃない。




午後一番の生徒総会。
会長不在の代理挨拶の大役を勤める私に、

「遥奈、頑張れよ」
「応援してるからね、遥奈ちゃん」

掛けられる声交わされる声。

「…ドジ踏まないようにね」
「うるさいっ」

「任せなさい」と、笑顔で手を振って。前を向いて凜と立つ。


「『生徒会長“代理”の手塚です』」


「よっ、手塚!」
「遥奈、頑張って〜」


ああ私は、たくさんの人に支えられて生きてる。

みんなの声が私の名を呼んで、毎日をめいっぱい生きていくんだ。


そう、ひとりじゃないから。

私は胸を張って過ごしてるから、心配なんかさせない。

ねぇ国光、私…


ちゃんとできてるでしょ…?










「暑いね…」
「そっスね」

そしてそれは部活中、リョーマと小休憩をとっていた時のこと。
私達は木漏れ日から覗く光に、時折目を細めながら、

「ね、ファンタちょうだい」
「やだ」
「ちょっとくらいいいじゃんケチ」
「…うるさい」

そんな事を繰り返し。

「遥奈、ちょっといいかい?」あちらから来たスミレちゃんの声に顔を上げた。


「おや?」


スミレちゃんは私の顔を見て、次には覗き込むように顔を間近に寄せる。

「ちょ、スミレちゃん顔近っ「お前… 顔色が良くないじゃないか」
「…えっ?」


少し、少しだけ気まずい雰囲気。そこに触れられたことを、私はあまり快く思わなかった。


「三食きちんと食べてるかい?」
「まぁそれなりに」

曖昧に濁して、多少なりとも的を得たそれに少しだけ気後れをして。

「ていうか暑いし。気持ち悪くなるから食欲ないんだよね」
「気持ち悪いだって…?」

スミレちゃんは少し考えるように… 何かにピンときたのか、ニヤリと笑って、

「まさかお前、手塚の子でも身篭ったんじゃないだろうね」
「はあ…?」

何とも場違いなセリフを吐き出したのだった。


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