【long】

□白日
5ページ/5ページ


「学校のみんなには内緒ね?」

イタズラに笑みを見せるいつもの顔、俺がそれに少し安心したのも事実で。

「ねぇ、ソレ先輩達は知ってるの?」
「三年のみんなと… 桃と海堂くんも知ってる」
「……フーン」

それにちょっとだけ疎外感を感じたのも嘘じゃない。


俺だけ仲間外れにされてたみたいで、何だか面白くなかったんだ…


「それからスミレちゃんと、先生達は一部の人しか知らないかな」と付け足して。

遥奈先輩は続けた。

「だけど大事な家族なの」

夕日に染まるオレンジの空を仰いで、幸せそうに言って笑う。




そう、大事なのは…

今が幸せかってこと。




“手塚遥奈”である事に、遥奈先輩は多少なりとも謂われのないプレッシャーを感じていたのかもしれない。

「手塚だから」と、

そう何度となく言われてきたのかもしれない。


でもそれを跳ね返す強さ、

たくましさと健気さ。


事実をひた隠しにしたまま、結果でもその名を背負ったままで、ただ前だけを見続けて、遥奈先輩はその現実を受け止めてきたんだ。




こんな俺でさえ、その境遇を配慮してしまうほどなのに…




「…分かった。誰にも言わないから、もういーよ」
「うん…」

どういう経緯で“手塚”になったのか、なんて正直どうでもいい。


今、目の前にいる遥奈先輩が、

今、遥奈先輩の目の前が幸せに満ちているのなら、

俺はそれでいいや。










「ねぇリョーマ」

黙ったまま座り込んでいた遥奈先輩が、勢いをつけて立ち上がった。

空を仰いで、

そのまままるで、すうっと空に飛んで消えてしまいそう。

「家族がいて、国光やリョーマやみんながいて、毎日楽しいから。

 私、幸せだよ」

「…ん」


そこに光を見出すように、不安なんか投げ飛ばすように天を見据える凛とした瞳。

勇気と、ほんの少しの希望を胸に抱いて、


それはまだ見えないのかもしれない。


遥奈先輩の行き着く先は何処にあるんだろう。

遥奈先輩は何を思い描いて…




その未来に何を求めているんだろう…


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ