【long】
□白日
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「学校のみんなには内緒ね?」
イタズラに笑みを見せるいつもの顔、俺がそれに少し安心したのも事実で。
「ねぇ、ソレ先輩達は知ってるの?」
「三年のみんなと… 桃と海堂くんも知ってる」
「……フーン」
それにちょっとだけ疎外感を感じたのも嘘じゃない。
俺だけ仲間外れにされてたみたいで、何だか面白くなかったんだ…
「それからスミレちゃんと、先生達は一部の人しか知らないかな」と付け足して。
遥奈先輩は続けた。
「だけど大事な家族なの」
夕日に染まるオレンジの空を仰いで、幸せそうに言って笑う。
そう、大事なのは…
今が幸せかってこと。
“手塚遥奈”である事に、遥奈先輩は多少なりとも謂われのないプレッシャーを感じていたのかもしれない。
「手塚だから」と、
そう何度となく言われてきたのかもしれない。
でもそれを跳ね返す強さ、
たくましさと健気さ。
事実をひた隠しにしたまま、結果でもその名を背負ったままで、ただ前だけを見続けて、遥奈先輩はその現実を受け止めてきたんだ。
こんな俺でさえ、その境遇を配慮してしまうほどなのに…
「…分かった。誰にも言わないから、もういーよ」
「うん…」
どういう経緯で“手塚”になったのか、なんて正直どうでもいい。
今、目の前にいる遥奈先輩が、
今、遥奈先輩の目の前が幸せに満ちているのなら、
俺はそれでいいや。
「ねぇリョーマ」
黙ったまま座り込んでいた遥奈先輩が、勢いをつけて立ち上がった。
空を仰いで、
そのまままるで、すうっと空に飛んで消えてしまいそう。
「家族がいて、国光やリョーマやみんながいて、毎日楽しいから。
私、幸せだよ」
「…ん」
そこに光を見出すように、不安なんか投げ飛ばすように天を見据える凛とした瞳。
勇気と、ほんの少しの希望を胸に抱いて、
それはまだ見えないのかもしれない。
遥奈先輩の行き着く先は何処にあるんだろう。
遥奈先輩は何を思い描いて…
その未来に何を求めているんだろう…