【long】

□想詩
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“そう”でなければ、遥奈は春からは山吹中学へ入学する予定だった。


「あらぁ、とってもよく似合うわ」
「ああ、可愛いねぇ」
「ふむ、孫にも衣装とはよく言ったもんじゃわい「ちょっと国一おじいちゃん、どういう意味よソレ!」

そんな中でも遥奈は変わらずに笑って。

「あ、国光くん!」

俺を呼び止めては嬉しそうに、くるりとポーズを変えては気恥ずかしそうに、

「どう?似合うかな…」上目がちに俺を見る。

「え、ああ…」

身を通した真新しい青学の制服に、心持ち緊張しつつ僅か顔を綻ばせる。遥奈は愛らしく、それでいて健気で…

俺は取って付けたような世辞も言えずに、思いがけず言葉を詰まらせてしまった。

「うん… よく似合ってるんじゃないかな」
「本当?ありがとう」


照れて笑う、控えめな主張。


遥奈があれから、以前ほど自分を出さなくなっていたのは言わずとも分かっていた事だったけど。


「遥奈、お前はまだ国光君などと他人行儀な」
「え、だって「だってではない!」
「…はぁい」

「全く…」呟くお祖父様を後目に、

「……だって恥ずかしいんだもん」バツが悪そうに笑う。笑う顔、

その下にひた隠された闇も知らぬふりをして。

「いいよ、慣れるまで好きにしたら。その内自然と言えるようになるよ」
「…うん」

慣れない環境に戸惑っているわけではない。むしろ、だからこそ自分を殺さずにはいられなかったんだろう。
遥奈はそういう子どもだと思った。

多生の縁とはいえ、全くの他人と家族として寝食を共にする事への気苦労。旧知の仲だからこそ、余計に気を張るほかなかったのかもしれない。

我が儘も泣き言も言わず…

弱い自分は決してみせない。強がりばかり。




持してそれを見せたとしても、

俺達は何も変わらない。遥奈の有りの儘を受け入れるのに…




「…遥奈にはまだまだ手塚家の長女たる自覚が足りんようじゃ」
「ふふっ。そうですね、遥奈ちゃんは国光のお姉さんになるんですものね」
「何だか不思議だなぁ」

それからの遥奈は、手塚家の長女その役割を完璧にこなそうとした。

長女としての養女、

事実上俺より生まれが早い遥奈は、不本意ながら俺の義姉となり…

「あ、ねぇ国光くん「遥奈!」

遥奈は、

「Σごめんなさい! …国光くん二階行こう」
「ああ…」




憧れを抱き続けた俺達という家族を、不本意ながら手に入れた。




「明日は街に行こうか。この辺りを少し案内するよ」
「うん!」

「ありがとう」と笑う顔、それすらも。
胸の内を明かさない、遥奈はまだその笑顔の下も暗い闇に覆われたまま。

早すぎる転機を迎えた春休みを終えて、俺達は揃って青春学園の生徒となる。


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