【long】

□想詩
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「遥奈って手塚君の兄妹なの?」
「えっ?」
「一緒に住んでるんだろ?何で?

 どういう関係?」

「……」

顔色一つ変えない… むしろ強張るような無表情なままの遥奈を見て、とにかく、俺が何とかしなければと思った。

放っておけば、


遥奈は真実を口にしかねない。


「……私は「下宿してるんだ、俺の家に。遥奈は親戚の家の子だから」
「、国光くん…」
「遥奈の家は遠いから、俺の家から学校に通ってるんだよ。遥奈のお父さん、…遥奈を青学に入れたがっていたから」

「なーんだ、そうだったんだ」口々にため息を漏らす。

「手塚さんって手塚君の親戚らしいよ」
「ああ、やっぱり?同じ名字だもんな」
「だから一緒に住んでるんだぁ」

そうした方が良い、と無難な策を取ったのは咄嗟の思いつきだったけど。

けど、これでいいんだ。
本当の事が知れたら、それがどういう事になるか分かるような気がしていたし。

良からぬ憶測が遥奈を追い詰める前に俺は先手を打って未来を臨む。

後は、噂が既成を作ってくれる…




「……遥奈」
「ん?」
「ああ、いや…」

何と言うべきか… 言葉を選ぶのにどこか苦しむ。

「俺が言った事…」
「親戚?って?」
「うん… でも、本当の事は言わない方が良いと思うんだ。お祖父様もそう言ってたし…」
「…うん」

これ以上何を遥奈に課せる必要がある?

余計な詮索をされて、揶揄されるような… そんな思いはせめてこの場所ではさせたくないと思った。


「国光くん…

 ありがとう」


お祖父様の言う“自覚”とはこういうものだろうか。

どちらにせよ、俺は真実をねじ曲げてしまったのだけれど。


「いいよ。気にしなくても、 大丈夫だから」

泣きそうな顔をして、頷いて痛々しく笑う。そんな遥奈を俺は…

護ってあげたいと思った。

抱きしめて宥めてあげたい。できる事なら、 ……できないから手を取って。

温もりを伝える事で独りではない事を… そばにいる事で安心感を与えてあげようと思った。俺にはそれができると思ったから。


だって俺達は遠い遠い…

血縁さえ越えた絆を持った家族。


無二の姉弟なんだから…


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