【long】

□無辜
4ページ/7ページ


「遥奈先輩」

いつかのように私の名を呼ぶ、

図書館の一角、今日はものすごく怠惰な態度で机に突っ伏する私の、やはり正面に立ち畏まる彼はまた… 気を使っているのだろうか、

「ああごめん、もう閉める?」
「ううん。まだいーよ」

顔を上げて、パラリと本のページをめくった。それを黙って見つめたまま、リョーマが正面の席に腰を下ろした。

「ねぇ、まだ調子悪いの?」

様子を伺う風に。

そうだな… 悪いというよりただの寝不足かな。
昨夜、真田くんのお祖父さんに言われた事、 真に受けたわけじゃないけれど無下にもできないと思って。じゃあ私はどうすればいいのかって考えて、

「昨日、立海のさな……」
「?」
「何でもない。まぁ、ちょっと大人はいろいろあってね」

それで寝不足だなんて言えやしないけど。

「…婆クサ」
「何ですって!?」

呆れたみたいに少し笑った、私はそれに安心して、 思った事を素直に話す気になった。

「調子ね、悪くないよ。乾くんの滋養強壮美茶、毎日飲んでるから」
「じよう… 毎日?」
「うん、毎日作ってきてくれるんだもん。それにね、」

「意外と普通なんだよ、いつもあんななのに」言ったそれに不審顔、

「リョーマも飲んでみる?」
「え、…いらない」
「ほんとに普通なんだから」
「……ていうか遥奈先輩、乾汁飲んだことないじゃん」
「……」

痛いところを突かれて、再び机に伏せた私は追及を逃れる仕草、黙りを決め込んで。

「ねえリョーマ、」
「何?」
「…心配かけてごめんね、

 もう大丈夫だから」

そこから、少し覗くように見上げた顔は驚いた顔。すぐに、

「別に」と素っ気なく返事が返ってきた。




何て言えばいいのか、

素直じゃないのね。ほんとはすごくすごく優しいくせに。

生意気な、 やはりそれ以上を知ろうとしないリョーマに、素直に甘えてしまおうと思ったし。
不思議とつらいとかいう感情はない、

泣いた事、 寂しいと口にした事で幾らか気が楽になったのかもしれないな…




「…さ、閉めるよ。帰って」

「えー、もう?」そう言って立ち上がり、先を行く背中を追いかけた。悪戯に腕を取ると、リョーマはやっぱり苦虫を潰したような顔。

「リョーマありがとう」
「……遥奈先輩、」
「ん?」

「……胸、当たってるんだけど」

「え、 ぎゃあああ!!」


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ