【long】
□無辜
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「遥奈先輩」
いつかのように私の名を呼ぶ、
図書館の一角、今日はものすごく怠惰な態度で机に突っ伏する私の、やはり正面に立ち畏まる彼はまた… 気を使っているのだろうか、
「ああごめん、もう閉める?」
「ううん。まだいーよ」
顔を上げて、パラリと本のページをめくった。それを黙って見つめたまま、リョーマが正面の席に腰を下ろした。
「ねぇ、まだ調子悪いの?」
様子を伺う風に。
そうだな… 悪いというよりただの寝不足かな。
昨夜、真田くんのお祖父さんに言われた事、 真に受けたわけじゃないけれど無下にもできないと思って。じゃあ私はどうすればいいのかって考えて、
「昨日、立海のさな……」
「?」
「何でもない。まぁ、ちょっと大人はいろいろあってね」
それで寝不足だなんて言えやしないけど。
「…婆クサ」
「何ですって!?」
呆れたみたいに少し笑った、私はそれに安心して、 思った事を素直に話す気になった。
「調子ね、悪くないよ。乾くんの滋養強壮美茶、毎日飲んでるから」
「じよう… 毎日?」
「うん、毎日作ってきてくれるんだもん。それにね、」
「意外と普通なんだよ、いつもあんななのに」言ったそれに不審顔、
「リョーマも飲んでみる?」
「え、…いらない」
「ほんとに普通なんだから」
「……ていうか遥奈先輩、乾汁飲んだことないじゃん」
「……」
痛いところを突かれて、再び机に伏せた私は追及を逃れる仕草、黙りを決め込んで。
「ねえリョーマ、」
「何?」
「…心配かけてごめんね、
もう大丈夫だから」
そこから、少し覗くように見上げた顔は驚いた顔。すぐに、
「別に」と素っ気なく返事が返ってきた。
何て言えばいいのか、
素直じゃないのね。ほんとはすごくすごく優しいくせに。
生意気な、 やはりそれ以上を知ろうとしないリョーマに、素直に甘えてしまおうと思ったし。
不思議とつらいとかいう感情はない、
泣いた事、 寂しいと口にした事で幾らか気が楽になったのかもしれないな…
「…さ、閉めるよ。帰って」
「えー、もう?」そう言って立ち上がり、先を行く背中を追いかけた。悪戯に腕を取ると、リョーマはやっぱり苦虫を潰したような顔。
「リョーマありがとう」
「……遥奈先輩、」
「ん?」
「……胸、当たってるんだけど」
「え、 ぎゃあああ!!」