【long】
□無辜
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「緑山…」
関東大会二日目、二回戦──
ここを勝ち上がればベスト4、自動的に全国大会行きが決まる。
「この試合に全力をかける!」
緑山戦を直前にして、我が青学陣も気合い充分。もちろん負ける気なんてさらさらない。
「あっ!手塚さん手塚さんっ」
まだ少し眠い目を擦って。コートに向かう途中、あちらから声をかけてきた女性に私は軽く頭を下げた。
もう何度かの遭遇、テニス誌の女性記者、芝さんだった。
「おはようございます。取材、来てたんですね」
「これから試合なんでしょ?頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます」
「緑山… 青学に絶っ対倒してもらうんだから!」
「え…?」
何だかよく分からない、怒り心頭の芝さんが言葉を続ける。
「あの子達、大人をバカにして…ほんとカワイクないのよ!」
「はあ…」
ああ要するに、 取材に行ったら態度が悪かったとか、そういう事?
緑山の人達については私も詳しく知らないし、まぁ大人が中学生にバカにされて悔しい気持ちも分からなくないけど… と話を聞いていて最後に、
「あ、ねえ?そういえば今日は六角中も来てるのよね?」
「ああ、そうですね」
ちょっとだけ嫌な予感。
「オッケー、じゃあ後で取材に行っちゃおうかしら。手塚さんの好きな例の子、バッチリ押さえてくるわね」
「え?ああ…
いえいえ別にいいですから!」
その名を出した事を少し後悔。若干の不安を持って、私はその場を離れたのだった。
三試合が同時に行われた二回戦、
乾くん海堂くんと、英二くんと桃。そしてシングルス、リョーマの善戦により青学は三戦三勝、
滞りなくベスト4入りを決めた。
午後の準決勝を控えて、各々が昼食をとる一角で。
「遥奈、ほらちゃんと食べなきゃだめだぞ」
「……」
「分かってるよ」なんて、ちょっと反抗したくなる。甲斐甲斐しく私を構う大石くんを隣にして箸を置いた。
「……大石くん、お母さんみたい」
「え゛っ、」
そうして笑いを堪えつつ、素知らぬ顔で携帯を開く。受信したばかりの“それ”、
「……」
「おっ?俺もメール…」
“それ”を見て、途端大石くんの顔が綻んだ。そして、私達は顔を見合わせたのだった。
油断せずにいこう
たった一言、国光からのエールに胸が熱くなる。
「おーいみんな!」
喜び勇んでみんなの所へ駆け出した、大石くんを見送って私は、それとは違うどこかへ歩き出す。特別どこかに何かがあるわけじゃなくて、何となく、
何となく余韻に浸りたかった。なんておかしな話。
途中木陰で寝転ぶリョーマを見つけて少し笑えた、それから進んだ先で、
「遥奈ちゃん、」
「あ、不二くん…」
私を呼び止めた不二くんの、……その横に、
「久しぶりだね」
きらきらと輝く笑顔、私に笑いかける六角の、佐伯くんの姿があったのだった。