【shortT】

□耳元でメロディ
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「大石くんて、困ってる人がいたら放っておけないタイプでしょ」

私は隣で、大量の資料を抱えて歩く大石くんに言った。










耳元でメロディ










「例えばお年寄りの荷物を持ってあげたりだとか、迷子の子どもの親を探してあげたり…」

現に、今だってこうして私の仕事、社会科の資料運びを手伝ってくれてるし。

「してない?」と見上げると大石くんは照れたように笑った。

「いや、そんな事はないけど… ああ、そうだ、子どもが産まれそうな妊婦さんを助けた事はあるよ」
「ええ!?…それはすごい。予想外だわ!」
「ハハ、大袈裟だなぁ」

尊敬の眼差しを向けると、謙遜しているのか大石くんは真面目な顔をして続けた、

「けど、困っている人がいたら助けてあげたいとは思うよ」
「へぇ…」

私は少し感心して、調子に乗ってしまったというべきか。それでも至って普通の感じで言ってみせた、

「じゃあ、ちょっと困った事があるんだけど助けてくれないかな」
「何だい? 何でもとは言えないけど、できる限りの事なら俺も力になるよ」

ああ、なんてイイ人なの。

疑う様子もなくにこりと笑う大石くんにこちらも思わず笑みがこぼれる。だから、 なんていうのは少し間違っているかもしれないけど。だから少し、ほんの少しだけ意地悪してみたくなる。


「ホントに?実は私、大石くんの事が好きなんだけど… どうしたらいい?」
「え?そうか…

 ……えええっ!?」


バサバサと大石くんの手から資料の束がばらけ落ちた。…というか、なんてお約束なリアクションをする人なんだろう。

「ああ、もう、大丈夫?」

自分の持っていた資料を置いて、大石くんの足元に散らばった大量の紙切れに手を掛ける。

「…そんなに驚く事かな」屈んだ拍子にぼそりと呟いて。

「っいや… すまない!」

吐かれた言葉に何だか胸が痛くなった。

「……すまないって、どういう事?」
「あ、いやそれは!」

慌ててしゃがみ込む大石くんを見ると、それはもうかなり顔を赤くさせてかなり困惑した様子で。
ほんの少しの罪悪感に、またちくりと胸を痛ませる。……ていうか、私は大石くんのその人のよさにつけこんで、恐らく本人次第の解決策もないだろう難題を言ってのけたんだけど。
まぁ予想通りの反応というか、その反応の仕方がちょっと予想外だったというか…

何とも複雑な思いで、その手を進めていた。

「よし、これで全部かな」最後の一枚に手を掛けた所で、

彼の、私より少し大きなその手が私の手に重なる。

「…え、あの…」

瞬間 ぎゅ、と握った優しくて力強い温もり。それを見つめて、

顔は上げられないまま、

「……助けて欲しいっていうのは、」
「ん?」
「それは… 俺にしかできない事だよな?」
「うん。

 大石くんにしかできない」

見上げるとその視線に瞳が重なった。
ぎこちなく、はにかみながら包み込むように柔らかく温かく、大石くんは私に微笑んで、


「だったら、俺も好きだと言えばいいのかな」


ああ、なんて憎い人なの。だから、

「…うん」コクリと頷いて、

「もう一回言って」


もっと意地悪してもいい?


「え!いや、あの…」

途端にさっきまでの二人に逆戻りするから、何だかおかしくなってしまって、

「助けてくれるんでしょ?」
「ああ、もちろん」

確かなその答えをもう一回聞きたくなる。

「だって、俺は君が…」

聞かせて、その言葉。




耳元でぽつりと、

きみが すきです


- end -

 

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