長編1

□03
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昨日、幸村くんに慰めてもらいながら泣いて泣いて泣きまくって、もう涙はでなくなった。

―――もう吹っ切れた。大丈夫大丈夫大丈夫………自己暗示のように何回も唱え、我が教室3年B組のドアを開ける。



『おはよう、』


「あっブン太!おはよう!……なんや暗いやん!あ、もしや気にしとるん?マネージャーんこと、」


『……………』



――――これは肯定と受け取るべきなんだろうか。えーと、まずマネージャーのことで悩んで、彼方のことで悩んで、自分のことで悩んで、一回吹っ切れて、あれ、待つんだ俺。自分のことと彼方のことで吹っ切れたのはいいが、マネージャーはどうしたんだ。おいおい、まさか忘れてたわけじゃないよな?あれ、幸村くんに相談してくるって言って自分のこと相談したのは誰だっけ?―――すんません、俺です。



「大丈夫やで!私マネージャーだから!


『…………………パァドゥン?!!


「おい、無駄に発音えぇな。私なんか訳すんのうまいけど発音は……まぁ頑張りやって先生に言われてんぞ!発音はあえて触れておかんけどな、訳は誉められてんぞ!凄いやろぉ!」


『そんなことどうでもいいわぁっ!!!!うん、1分39秒くらい前の会話に戻そうか』


「ちぇ、やから!私昨日からマネやねんて」



いやいやいや、俺昨日マネになってくれって頼んでねぇよ!いや、頼んだは頼んだけど、こいつ逃げただろ!!どうしたら昨日の雰囲気から、マネになりましたぁ!てへっ、になるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!!!



『ブンちゃん、おはよう。朝から騒がしいぜよ』


『挨拶遅ぇよ!!俺が来てからもう10分はたってるよぃ!』


『まぁえぇじゃろ、それより神崎がマネになってよかったなブンちゃん』


『あ、あぁ。でもなんで……』


『さぁな』



仁王の奴、全く気にしてる様子なんてねぇ!
―――マネージャーなんて、どうでもいいっていうのかよ、

考えれば考えるほど、沸きだしてくるのはそれに対する答えではなく、ただ仁王に対する怒りだった。

―――まぁ、八つ当りなのだけれど、

なんでそうわかっているのに、対処することができるのに、俺は感情を抑えることが出来ないのだろう?
消極的になれ、と、そう言っているわけではなくて、『自分の感情をコントロールする』という意味でだ。


―――くそ、仁王のアホ!どうでもいいような顔しやがって!



『もういいよぃ!仁王なんて知らねぇ!』



俺は感情をコントロール出来ないあまり、怒りをぶつけただけでなく教室の入り口のドアを思い切り開け、出ていくという始末だった。



『あぁ!腹立つ……!』






『なんじゃ、ブンちゃんのヤツ。………なぁ神崎、俺ブンちゃんを怒らせるようなことしたかのー』


「ん?知らん、」






何も聞こえない。


俺はただ、

ただただ大股開いて走っていた―――。









「ブーン太!」


『……彼方、』



屋上で体育座りして丸まっていた俺は、一日中さぼってしまった。
部活までさぼるのか、という時間になってしまい、俺は立ち上がろうとしていた。
何度も何度も手に力を入れて、足に力を入れて、踏ん張って踏ん張って―――


でも俺は、立ち上がれなかった。

それは俺の弱さ、
俺が、弱いから、



「ブン太さ、何そない悩んどるん。最近、抱え込みすぎやで」


『………彼方がマネージャーになってくれて嬉しいんだ。でも、俺だけなのか、って思ってよぃ。仁王は素っ気ねぇし、こんな自分にも腹立つし………もう俺、どうしていいのかわかんねぇ……』



これが俺の素直な気持ちだった。
何も隠さず、全てを曝け出した結果だった。



「そんなことで悩んどったん?」



俺の悩みはそんなもんなのかと、そう言いたいのだろうか。
でも俺にとっては、大事な―――



「皆、私がマネージャーになって喜んでくれてん。まだマネージャーの仕事したわけやないのに、一人一人が私んとこ来てありがとう言うてくねん。
あとな、いいこと教えたる。私がマネージャーになったんは、仁王になってくれって頼まれたからなんや」


『………仁王に、頼まれた?』



まさか、そんなはず―――



「私はマネージャーやらんって、ずっと不貞腐れてたんやけど、仁王がマネージャーやってくれって、何回も何回も頼むんや。頭下げて、何回も何回も。そしたら、やらなあかんなって思て………」


『…ありがとな彼方!俺、仁王に謝ってくるぜぃ!』



気が付けば、力の入らなかった手も足も、今は軽々と動いていた。
全ての重みが無くなったかのように、身体が自然と軽かった。






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