長編1

□04
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『ほらっ、こっちだぜぃっ!』


「ちょ、待ちぃやブン太。引っ張るんやない!あ、痛い痛いっ!なんかにぶつかったわっ!」


『気にすんなっ!』



多分満面の笑みでそう言っていることだろう。うん、そうだ。絶対そうだ。それとは対称的に私は不愉快だった。うむ、実に愉快であーる。
いや、聞いてくださいよ。いきなり目隠しされて腕思い切り引っ張られて連れ去られて、散々躓くこっちの身にもなってもらいたいものですね、はい。結構痛いんですよ。階段とかで躓いたりするのは。そしてなにより目の前が真っ暗という恐怖。本当に世界が真っ黒になった感じなんすよ。やばいっす、まじで。この恐怖は言葉では言い表すことが出来ないっす。
生きてることに、この命に感謝するべきだとしみじみ思った瞬間でした。あれっ、作文!?



「いつもおーきに、ママン」


『なに意味わかんねぇこと言ってんだよぃ』


「まんまの意味っすよ。そんなこともわからんのー?ぷぷっ」


『腹立つ。めっちゃ腹立つっ!』


「ちょ、痛いって!ばっ、すまんって!わかったって!私が悪ぅござんしたっ!」


『わかればよろしい。…あっ、着いたぜぃ。あと、も少しだな』



着いた、と言われても此処は何処なんだいブン太君。え?見てからのお楽しみ?じゃあ目隠し外してもいいのかなぁー?え?外しちゃ駄目?そーゆーのねー、矛盾って言うんだよわかるー?
しかも着いたのにあともう少しって日本語おかしくない?おかしいよねー。頭だいじょーぶー?



『まっ、取り敢えずついて来いよ』



思うように身動きがとれない私は、その言葉を聞きブン太が私の腕を掴むのを待った。
少ししてぎゅっ、と掴まれた腕にブン太の温かい熱が伝わる。

(…なんか、急にドキドキするわ…)

この気持ちはこの先になにが待っているかという好奇心なのか。
それとも、ブン太に対する気持ちなのか。
勿論前者であってほしいことを願うが、はっきりと言えるかどうかと聞かれると、きっと答えられない自分がいると想像してしまうことになんだか焦りを感じた。

……モヤモヤする。

だが、そんなモヤモヤを吹き飛ばすかのような明るい声が私の耳へと伝わる。



『じゃ、此処でおーとーなーしーくっ!待ってろよぃ』



やけに大人しくを強調するブン太を怪訝そうな目で見つめたいところだが、まだ目隠しは外されない。だが足音からしてもうブン太は目の前にいないはず。もういいや、外しちゃえ。
よく頑張った、私。真っ暗闇の世界の中で、よく生き延びた。流石は私。私は流石。
暫くの間、自分に酔いしれていると、目の前のドアの向こうからブン太の入ってきていいぜーっという少しぐぐもった声が聞こえてきた。

その言葉を合図に、私はドアノブに手をかけた。



『『『神崎(彼方)!マネージャーになってくれてありがとうっ!!!』』』



「…………へ?」



クラッカーの中身がパァンッ、と弾ける音と、目の前にいるみんなの声とが同時に私の耳に届いて、動揺を隠せない。
え、なにこれ、なんかのドッキリ?



『なにぽかんとしてんだよぃっ!』


「いや、あの…なんなん?これ…」


『見ての通りだよ。俺達テニス部レギュラーが、こうしてマネージャーを歓迎しようと思ってね』



透き通った青色の髪の毛の男の子が私にそう言う。……すごい、綺麗な人だな。確か、幸村……なんとかさん。名前はわかりません。すいません。

というかその前にみんな美形すぎやろぉぉぉぉおおおっ!!!



「……いや、歓迎とか言われても私なんもしとらんし……」


『これからしてもらうんじゃろが』


『そうだぜぃ。今更やめるとか言わねぇもんな』


「言わんけど、」



私のためだけにこんな会を開いてくれたのが、なんだか嬉しくてしょうがなかった。
みんなが快く迎え入れてくれる。
そんな優しさが胸にじーん、と伝わるようだった。



「みんな、おーきにな…」


『おいっ!なに泣きそうになってんだよぃ!?』


「だ、だって…嬉しいんやもんっ…。みんなの優しさが、温かいんやもん……」



いつもより格好良く見えるブン太といつもより優しく思える仁王。
そんな二人に、思わず見とれて。
なにを言えばいいのか、どうお礼をすればいいのかわからなくなった。



「みんな、ほんまにありがとうっ……」



ありがとう。その一言しか言葉に出来なかったけど、今の私にはそれが精一杯だった。
暫く沈黙が続く。あぁどうしよう。こんな空気を生み出してしまったのは他でもない私だ。
でも上手い言葉が浮かばない。
誰もがこの重苦しい空気を感じとってはいるが、私と同様上手い言葉が見つからないのだ。
そんななか、チャレンジャー丸井がそっと口を開いた



『とっ、取り敢えず始めようぜぃ!彼方驚くなよぉー、俺達で色々サプライズ用意したんだぜぃっ』


「……そういうのって本人に言ってしもてええん?」


『え、駄目か?』


『どう考えても駄目じゃろ。サプライズの意味がなくなる』



ブン太の言葉に仁王がすかさず突っ込む。
だがブン太の一言で冷めていた空気はいつの間にか和める空気へと変わっていた。



『ま、さっきのことは気にすんな彼方!』


いや、そんな笑顔で言われても無理でしょ。
取り敢えず私はブン太を軽蔑的な目で一度見てから部室全体を見渡した。それから、皆の顔を。



「気にしないことは無理やけど、早よ始めへん?そのサプライズ、とやらも楽しみでしゃあないし。ほらっ、誰進めてくれるん?」



にこっ、と自然にこぼれた笑み。

私はまだ皆のことよくわからないし、マネージャーという仕事がどんなに大変なのか予想もつかない。

ただ、こんな優しい人達の為なら、頑張ってみたいな、って、自分の身を犠牲にしてもいいとか大袈裟なことを考えたりもした。





(20110628)

なんか長くなりそうなので切ることにしました。
次に続きます。
 

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