長編1

□06
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雅治が倒れた。その突然の事態により、私の歓迎会は中止という形で幕を閉じた。なんともすっきりしないが、もう昨日のこととなってしまえばいつまでも気にしているのもどうかと思う。
雅治も驚異の回復力で復帰してることだし、まぁいいじゃないか的なノリで気にしないこととする。私ってなんて心の広い子なのかしら!


「雅治、はよー」

『…はよ』

「朝からテンション低いやん雅治……って、ほんまどないしたん?」

『…なんでもなか』


そう言って、自分一人では立っていられないとでも言うように、雅治は自分の机に手をつきよしかかった。ブン太もそんな雅治の様子に気づいたらしく、私と目を見合わせる。


「ちょ、雅治…」


ふらつく雅治の腕に触れた。いや触れようとした。
私の指先はぱっと振り払われ、雅治の腕に触れることなく、丁度よく吹いた風を切っただけだった。


『触るんじゃなかっ…!』

「え……」


教室に響いた声は、私を虚しくさせて、その場にいづらくさせる。雅治に言う言葉もなく、私の心は雅治への恐怖でいっぱいだった。


「………っ」


何故だか溢れる涙を無視して、私は教室を飛び出した。




――――……



教室の中がざわつき始めて、俺は自分がなにをしたのかわからなくなった。
ぐらつく頭をおさえようとおでこに手を当てる。その腕をいきなり掴まれて、俺は倒れそうになった。


『仁王っ!お前なにしてんだよぃ?!なにぼーっとしてんだよぃ?!…彼方、泣いてたぞ!機嫌悪いからって人にあたってんじゃねぇよっ!さっさと彼方んとこ行けよっ!!』


そうだ。ブン太の言うとおりだ。
追いかけなくちゃいけない、彼方を。
そうは思っても、視界がぐらつき、自分が今何処にいるのかすら、まともに考えられなかった。

ブン太は今きっと、彼方を追いかけたいんだろう。追いかけて抱き締めて、慰めてあげたいんだろう。
でも俺に追いかけさせようとしているのは、ブン太が本当は俺の気持ちに気づいているから?
ブン太の瞳が、そう伝えているようだった。

それなら、俺は今、なにをすべきだろう―――?

俺は―――。


『彼方っ!』


大好きな人を独りにしたくない。









「……ふっ、ぅ……」


私は屋上の片隅にうずくまって泣いていた。
どうしてだろう?わからない。それでも悲しかった。

雅治に拒否された。そう考えると今にも泣き出しそうなくらいに涙が溜まったけど堪えた。
私はネックレスを強く握りしめた。


「まさ、はるっ……」


そのとき、一粒の涙が零れた。




『彼方っ!』

「ま、さ……」


屋上のドアを開けて、私の元へと駆け寄ってきた人。それは雅治だった。
雅治、そう呼びたかったのに、突然の出来事に頭がついていかなかった。


『ごめん…』


私、雅治に、抱き締め、られてる?


『…傷つけて、悪かった』

「まさ、は…る…」

『…どうしたんじゃろうな。なんか苛立ってて、自分がよくわからんくなっとって。彼方が嫌いなんじゃのぅて、その…俺は…』

「なに……?」


そう言った瞬間に、より抱き締める力を増した雅治の腕。
どくん、この音は私の?
それとも、
雅治の?



『彼方が好きなんじゃ…』



そう言った雅治の唇が、
私の唇と重なった。





(20111028)
 

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