長編1

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「ほんま最悪やっ!」


今日こそは部活に行こう!そう意気込んでいた矢先、ドリンクの作り方を書いた紙を家に忘れてきてしまった。お恥ずかしながら、あの紙がないとドリンクを作れないのです…。だが幸いにも家は徒歩で十分。走って五分。
私は急いで靴を履こうとするが、中に紙切れが入っているのに気がついた。


「?」


話したいことがある。四時に教室で待ってる 丸井、仁王


「…私に、話したいこと?」


思わず口に出してしまう。でも思い当たる節は一つ。きっと二人は仲直りしたのだ。そしてきっとその原因を話そうとしてくれているのだ。きっとそうだ。
私は腕時計を確認して、短い針が4を指そうとしているのを見ると急いで走り出した。


『彼方?』

「精市?」

『そんな急いで、どうしたの?』

「ブン太と雅治が教室で待っとるんや!やから、部活遅れるっ!」

『ちょっ、彼方っ!』


精市が私を呼び止める声が聞こえたけど、そんなことを気にしている場合ではなかった。
私は、ただただ走った。






「あれ…居らん…」


周囲を見渡しても誰もいない。時計を確認すると、急ぎすぎたのか、まだ四時にはなっていなかった。
佇んでいるのもどうかと思ったので、自席に着くことにした。


「?!」


すると、いきなりドアがガンッ、と力強く開かれ、女の子が十数人入ってくる。見たこともない人もいるから、多分三年生だけではないのだろう。意外にも冷静に状況判断できている自分に少し驚いた。


「なんでしょうか」

『あんたさぁ、いきなりテニス部のマネージャーになって、レギュラーにちやほやされて、調子乗りすぎてない?』

「そんなことあらへんけど、」

『この間だって幸村君に昼誘われてたし?何様のつもりなわけ?』

「何様でもあらへんし、つかそっちが何様やねん」

『こんのっ!!』


その言葉が合図であるように何人かが私を床に抑えつける。流石に複数となると抵抗してもびくともしない。精一杯の力で顔を上げ、足を組んで机に座っている一人を睨む。


『そーいえばさぁ、あんたのその指輪、仁王君の指輪と似てるわよね。つか一緒?』


『きゃーストーカー!』『気持ち悪ぅー』そんな声が聞こえてくる。私のことを馬鹿にされているのはわかるけれど、雅治のことまで馬鹿にしているような気がして、腹が立った。


「っ、ふざけんなっ!」

『そーゆーの、腹立つのよねぇっ!』


そう言って私の手の甲を何度も踏みつける。それに満足したのか私の髪を乱暴に掴んで顔を無理矢理上げさせる。


「っ、」

『ふっ、なによその顔。笑っちゃう』

「うるさ、い…」

『まだそんな口きけるの。そんなあんたにはこれ、必要ないわよね?』


皆で一斉に妖しい笑みを浮かべる。

嫌でもわかった。

このあと、なにをされるのか。


「や、めてっ…!」


私の声は届くはずもなく、空気と化した。力の入らない指から抜かれていく指輪。


「やめてぇーっ!!」

『バイバーイ』


夕日の朱色と指輪の銀色とが反射しあって、綺麗に輝いた。でもそれは一瞬で、それはあっという間に私の視界から消えた。


「………っ!」


私を抑えつけていた奴らの力が少し緩んだ瞬間を見逃すわけもなく、私は腕をぶんぶんと振り回して窓のほうへと駆けていく。
窓の外を見るが、勿論指輪が見つかるわけもない。


「雅治っ…ごめっ…!」

『そんなに大事ならさぁー』


いつの間にか私の後ろにまで来ていた指輪を落とした張本人。
目の前にいる悪魔を睨みながら、私はこんな奴らの前で泣くもんか!という意地で必死に涙を堪えた。

―――このあとの出来事は、覚えていない。


『…探してくれば?』


そう言われた瞬間、


「えっ…?」


なにが起こったのかわからなかった。






『あれ?なんで丸井がいるの?』

『なんでって練習だろぃ、そんな当たり前なこと聞いてどうしたんだよぃ?』

『いや…、彼方が丸井と仁王が教室で待ってるって言って走っていったから…』

『俺、そんなこと言ってねぇよ…!』


…嫌な予感がする。その時、幸村だけでなく丸井も感じとったもの。
二人の会話を聞いていた仁王は、冷や汗を一筋流していた。


『レギュラー集合!至急彼方を探してくれ!見つけ次第、連絡頼む!』


幸村の言葉を聞き終わる前に走り出していた丸井と仁王に呆然としながら、そんな暇はないのだと幸村も走り出した。





(20111230)

久しぶりの更新かも…
 

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