長編1

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『いない…』


学校中何処を探しても彼方の姿はなかった。幸村君の言っていた教室にも行ってみたが、荒らされたような跡があっただけで誰もいなかった。


『何処にいるんだよぃ…彼方』


半分諦めながらも、歩く足は止めない。
一旦外に出て、幸村君に会いに行こうと角を曲がろうとした瞬間、集団で歩いている女子生徒を見つけた。
まさかっ…!


『おいっ、お前ら…!』

『ブッ、ブン太君!?』


後ろでキャーキャー騒ぐ声が聞こえるが、今はそれどころではない。
そのうるささからか、彼方を見つけられない悔しさからか、なんだかとても腹が立った。


『神崎彼方知らねぇかっ?!』

『さ、さぁっ?』


明らかに今目を逸らしたのがわかった。

こいつらが、彼方に、なにかを、した。そして、俺は、彼方を、守れなかった。

その事実が、俺を更に焦らせる。


『さっさと答えろっ!!』


自分でも抑えきれない気持ち。
必死で握り拳をつくって我慢するけれど、今にも手をあげてしまいそうで怖い。

初めてだ。
人のために、こんなに必死になれたこと。


『彼方を何処にやった!?さっさと言え!!彼方に怪我でもさせたら、お前ら許さねぇからなっ!!』


今にも泣き出しそうな顔をしながら『あ…あっちです…』と指を指す。俺はすぐさま指された方向へと走り出した。


『………あ…』


そこには―――。






『待ちんしゃい』

『にっ、仁王君…!』


ブンちゃんとこいつらとのやりとりを物陰から見ていた俺は、こいつらを逃がすわけにはいかない、とひょこっ、と姿を表した。


『彼方に、なにしたんじゃ?』

『………』

『答え次第では、おまんらを殴ってしまうかもしれんのぅ…』


その言葉でみるみるうちに恐怖に染まっていく顔。なかには泣き出す奴もいた。でも俺には関係なかった。
非情だと言われても構わない。
ただ好きな女一人守れなかった、それだけが悔しい…。

唇を噛み締めると観念したかのように、その中の一人が口を開いた。


『仁王君がいけないのよ!あの子に…指輪なんて、あげるからっ……。私、見たもの…!あの子に指輪渡してたとこっ…!』

『……じゃあ、』


じゃあ、俺のせいで…俺が彼方に指輪をあげたせいで、彼方が…彼方が……。

全ては、俺が―――。


『………っ、』


俺はその場に両膝をついて頭を抱えた。


『彼方っ……』


そんな俺に、神様は幸せなど、与えてくれはしなかった。



『ああああああああっ!!!』



遠くから、叫び声が聞こえる。
これは、誰の声―――?





(20120103)

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