長編1
□偶然と運命
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出会い、ってさ、偶然だよね。
必然とか、奇跡とか、そんなもんじゃなくて、本当に偶々。
気がつけば君と私は出会っていた。いや、出逢っていた?
一瞬の間に起こり消えていくことなんていちいち気にしていられないけれど、君ならきっと大丈夫。
君との出会いは偶然だ。
君にこんな気持ちを抱くのも、君にこんな気持ちを抱かれるのも、きっと偶然だ。
「……はぁ、いらっしゃいませー」
溜め息を吐いて気の抜けた声を出す。なんて失礼な店員だこと。自分のことだけど。
まぁそんなどうでもいいことは置いといて。
―――偶然ばかりの恋。
私はそんなマンガチックな恋を夢見すぎたのか、今まで恋というものを経験したことがなかった。
本屋で働こうと思ったのも、そんなマンガチックな恋に憧れている私ならではの理由である。聞きたい?聞きたい??よーし教えてあげよう。
まず私がここで働いている。美がつくような少年がこの本屋に立ち寄る。少年は本を買おうと私におすすめの本を聞く。そこで私に一目惚れする。……なーんてベタな展開を待ち望んでいるのだっ!
「ははー、夢見すぎー」
漫画の世界でもあり得ないわ、自分でもそう思いました。はい、自重します!
まぁこんな出会いじゃなかったとしても、なんかときめくような恋がしたかった。
他のことなんて気にならないほど、夢中になりたかった。
ははは、こんなんだから彼氏だなんて存在が一度もできたことないんですよねー。
もう成人だってしたっていうのにこんなしょうもない夢ばかり追いかけて、しまいにはバイト生活に満足している日々。
でも私自身本は小さい頃から大好きだから、本屋で働きたいとは思ってる。いつかは自分の本屋をもって子供に本を読ませてあげたいなーんて夢に思ったりして。
『ちょ、そこのお前さん』
急に私の妄想ワールドへ入り込んできた声。
お前さんとは私のことかな?そう勝手に解釈して振り返る。
そこには銀色の髪の色をした少年?(もしかしたら私と同様成人しているかも)が立っていた。
無造作に跳ねた髪、どこからか結ばれている尻尾のような髪、銀色の髪。
髪だけでこんなにも連想できるものなのか、それほどまでにこの少年は特徴的な髪型をしていた。
―――きっとさらさらなんだろうなぁー…。
羨ましい。そんなことを思っていると急に少年が口を開いた。
『あの、この手、やめてほしいんじゃけど』
「へ?」
そう言われて自身の手を見てみると、いつの間にやら右手は少年の頭の上に。
きっとさっきまでなでなでしていたのだろう。ああ恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「すいませんっ。あの…わざとじゃないです。あの、ついって言う感じであの…はい、すいません…」
うまく言葉がまとまらず意味のわからない文章が出来上がった。これだから国語のできんやつは…(私のことですがなにか?)
取り敢えず色々考えて反省する前に、少年の頭の上にのせたままの手をぱっと離す。
だが、少年はその離した腕を掴みもう一度自分の頭に置く。
『前言撤回じゃ、もう一度撫でてくれ』
「…え、あ、あの…やめてください」
『どうしてじゃ』
「あの…恥ずかしい、です」
私は隙をついて少年の頭の上にのっかっていた手を再び離す。
この場にいづらい気がしてならない。踵を返し、少年から去ろうとする…が、またしても腕を掴まれる。
反射的に顔を振り向かせるが、そこには顔を真っ赤に染めた少年の姿があった。
そんな少年から、驚きの言葉が発せられる。
『…お前さんのこと、好きじゃ…』
「…え?」
一瞬、なにを言われたのかわからなかった。それでも私は必死に理解しようとした。でも、無理だった。
好き?まさかまさか。
出会って数分の他人を好きになる?どこの夢の話ですかそれ。
え?どこの夢の話でもない?そうでないのなら、もしかしてこれが、
運命の出会いってやつですか?
(20120108)