長編1
□想像と現実
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―――突然の美少年からの告白がもう昨日の出来事になってしまった。
あぁ、一日というものは早いものだね。しみじみと思う。
ただ、なんだろうね。うん。とてつもない違和感が頭の中から離れない。え、ちょっと待って。
「…ナンデココニイルンデスカ」
『おー、ものすごいカタコトじゃのぅ』
全国の皆さんに質問です。これはどういうことですか?
え、私昨日この人に告白されて、今日仕事に来てみれば何故かレジにこの人が立っていて…今も私の隣で仕事をしていて…は?わけわからんのだけれども。
「そんなことはどうでもいいです。で、なんでここにいるんですか!」
『そんなの、理由は一つじゃろ』
「………」
静かに溜め息を吐く。…理由?そんなもの考えたくもない。
私は自分の考えを否定するように頭をぶんぶんと左右に振った。
きっと違う、そう自己完結させ、美少年の顔をじっと見た。
「まさか、まーさーかっ、此処で働くだなんてことではないですよね?」
『まさか、その通りじゃ』
軽々しく言いのけたんだと思うけれど、私にはどすん、と何かが乗っかったようだった。
勝手に終わらせた物語に、一人の侵入者。
私の制止も、すべて振り払って。
無理矢理にでも私を連れ込もうとする。
―――横暴だ。
それでも私は、悪い気はしていなかったんだと思う。
彼が、此処で働くことに。
きっと心の何処かでこういう展開を待っていた。
私は彼に、期待していた。
『まっ、でも、悪い気はせんかったじゃろ?』
「はい。吐き気ならしましたけど」
『つれないのー』
「……はぁ」
私はまた、溜め息を吐いた。
□
『みんなに、改めて紹介するわ』
突然の店長からのお呼びだし。まぁ、私に限らずなのだけれど。
『新しく入った、仁王雅治さん』
『よろしくのぅ』
「ははは…」
引きつる頬を無理矢理にでも持ち上げた。笑っていなければ、自分がおかしくなってしまう気がした。
彼の顔を見つめながら、少し、考える。
昨日の彼の言葉がもし本当ならば、私はどうすればいいのだろうか?
勿論、私には彼氏などという存在もいなければ、恋というやたら甘いものも経験したことがない。
だから、これがどういう気持ちなのかとか、全くわからない。
きっとこれは、ただ。
初めてのことにドキドキしてるだけ。
うん、きっとそうだ。
『えっ、かっこよくない!?』
『ついにこの本屋にもイケメン男子がきたわねっ!』
『やっときたわよっ、私達の時代がっ!』
意味のわからない会話が聞こえてきて、ああ、この本屋にはミーハーな女子しかいないんだった。と、冷静にもそう考えていた。(あ、店長は別として)
「…店長、なんで新人なんていれたんですか。求人はしてなかったはずですけど。しかも、よりによって、男」
『ははっ、彼方ちゃんに免疫力をつける為よ』
「冗談はやめてください」
そう言うと、店長は右手をひらっとあげた。お手上げとでも言っているようだった。
『はいはい。相変わらず、堅いわねぇ』
「店長はお気楽すぎます」
『ははっ、お気楽で結構』
色々と感謝している店長には、それ以上なにも言えなかった。
『面白い店長さんじゃの』
「まあ。でもその反面、この本屋が大好きで、きっと誰よりもこの本屋を大切に思っていて、すごく優しい頼れる店長よ」
『見てたらわかるナリ』
物わかりはいいようだ。嫌だと言ってもこれからは同じ職場で働く仲間。お互いの良い面を知っていくのは悪いことじゃない。
『…ところで、今一緒に写真撮ってくれんかのぅ?』
「なんで?」
唐突すぎる問いかけに私は質問で返す。だってなんで写真を撮らなきゃいけないのかわからない。店長の良さを語っててどうやったら写真に展開するんだ。
『堅いこと言うんじゃなか』
カシャ
「あ」
今の音は間違いなく彼の手に持っている携帯のシャッター音だろう。
私は顔を背けていたからいいものの、仁王君は撮る気まんまんだったらしく、にこっと笑ってピースなんかしちゃってる。
「…はぁ、」
『あ、ついでにメアドも教えてくれんかのぅ?』
「嫌だ」
…神様。
私の求め続けていた恋愛って、
結局なんだったんでしょう―――?
(20120109)