長編1
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彼方は今日も安らかに眠っていた。
誰が話しかけようとも、その瞼が開かれることはなかった。
『…なぁ、ブンちゃん』
『………』
『ちょっと話したいことがあるきに。外にでんかの?』
『…わかった』
誰も俺たちを止めようとはしなかった。
□
ブンちゃんを連れてやってきたのは病室を出てすぐのロビーだった。無言でソファーに腰掛け、俺は口を開く。
『お互い黙り込むんもあんま好かん。じゃから早急に話す』
ブンちゃんは黙って頷いた。
『まず最初に聞きたいんじゃけど、彼方の首にネックレスがあるん知っとる?』
『そういえば、あったな』
『あれな、初恋の男から貰ったんじゃって』
『っ!』
そりゃ驚きを隠せないだろうな。俺だってそうだ。
『しかも今もそいつのこと想っとる』
俺達なんかが、入り込む隙間なんてない。
『…俺はそいつから彼方を奪ってみせるなんて言ったけど、正直自信なんてない。意識が戻らん彼方にずっと付き添ってやるブンちゃんにも、俺は負けとる気がする。じゃから、彼方に言う。諦める、って。そう決めたんじゃ』
『仁王はそれでいいのかよぃ?』
『…あぁ』
『ならその指輪渡せ』
…………。そうか。彼方を諦めるって、こういうことなんだ。
この指輪を今ブンちゃんに渡さなきゃ、俺は一生彼方を諦められない気がする。渡さなきゃいけない。頭の中ではわかっている。わかっている、のに…
どうしても渡すことを躊躇ってしまう。
『………』
『渡せないんだったら、そんなこと言うなよぃ!』
『ブンちゃん…』
『俺だって自信なんてない。お前も彼方が好きだって言って、正直焦った。でもきっと…俺達似てるんだ。同じ女を好きになったんだから。どっちが先に好きになっただとか、もうこの際どうでもいいんだよぃ。
…初恋の男?上等じゃねぇの。ライバルが多い方が燃える。仁王も、そうだろぃ?』
ブンちゃんの言葉で、目が覚めた気がする。
俺は、自分のことばかり考えて。
自信がないってのを言い訳にして。
いつでも逃げてばかりだった。
逃げないって決めても、結局どこかで自分が傷つかないように考えてる。
そんなんじゃ彼方を守れなくて当然だ。
…もっと強くならなきゃいけない。
彼方を守るためにも。
『…ああ、そうじゃな…』
そう呟いた瞬間、彼方の病室から幸村が走ってくるのが見えて思わず立ち上がる。
『二人とも!彼方が目を覚ましたよ!』
『……え?』
『幸村…』
三人で病室に戻ると、真田が切なげな表情で幸村に言う。
『どうしたの?』
『それがだな…』
「はじめまして」
…はじめまして?なにを言っているんだ彼方は。
ちらり、と幸村は真田を見る。
「あなたがたは、誰ですか?」
『記憶喪失、みたいなんだ…』
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うおーなんというシリアス←
ちゃんとギャグに復活しますからね!そのうち!←おい