長編1

□14
1ページ/1ページ




俺は毎日毎日学校が終わってから見舞いに行った。それでも彼方の様子は変わらない。ただ俺は、今日こんなことがあっただとか、あそこのケーキ屋がうまいとか、そんな他愛もないような話をするだけだった。






『今日もブン太は来ないね…』

『全く、大会前だというのに…たるんどる!』

『…じゃあ弦一郎は、一人の女の子のためにずっと付き添っていられるの?大会前の練習が、どれだけ大切かって、わかっているのに。あとで怒られるって、わかっているのに』

『………』


真田がそう思うのは正しいことなんだと思う。普通だったら俺も部長として、しっかりブン太を叱らなければならない。でもどうしてだろう。
一途に一生懸命に生きる人は、嫌いじゃないんだ。
―――俺もまだまだ甘いなぁ。


『全く困るよねぇ。恋は盲目とはよく言ったものだよ』






「…ねぇ、」

『ん?』

「あなたは…どうして私のそばにいてくれるの?」

『…そんなの、』


一度口を閉じて、彼方の手を握る。


『お前が、好きだからだよぃ』


この気持ちに偽りなんてない。たとえお前が、俺を思い出してくれなくても。

俺は一度彼方を見つめ、震える小さな身体を優しく抱き締める。

彼方は頭の中で飛び交う言葉を一人に結ぼうとするが、なかなかうまくいかない。

―――浮かぶ…浮かんでくる、この笑顔。怒った表情。私の名前を呼ぶ、声。

思い出される全てを受け止めようとすると頭が痛くなる。

―――誰だっけ、わからない。でも、なんか…覚えてるんだ…。




「ブン太の名前ってさー丸井ブン太やん?」

『今更だな』

「なんかさー、丸いブタみたいやなーって思ったんやけど、おもろない?」

『おまっ!それ結構コンプレックスなんだぜぃ!?』

「せやけど、覚えてもらえそうやん。…私な、こっちに引っ越してきたとき、突然友達のつくり方忘れてしもたみたいに友達できんくて、名前すら覚えてもらえなかってん。やから…羨ましいなって」

『馬鹿か、お前は』

「っんやと!?関西人に馬鹿はあかんねんでぇ!?」

『あー悪ぃ悪ぃ。でもよ、俺はちゃんと覚えてるぜぃ?』

「えっ…』

『お前は神崎彼方。俺は丸井ブン太。俺達、いつまでも親友だろぃ?』

「…うんっ……」




「…ブン、太っ……」


昔の記憶とともに、溢れる涙。


『っ記憶…戻ったのか!?』


ブン太の言葉に応えることもなくただ黙って抱きついた。





(20120111)

うん、記憶取り戻すのはやいよね(笑)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ