長編1
□行動と言葉
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鉄が錆びているせいなのか、私達が一言も言葉を発さないからなのか、ブランコのキィ、キィという音だけが一際目立って響いていた。夕暮れ時、日が沈みはじめて辺りが橙色に染まっていく。なにも響かなくなった公園に、私と仁王君の影だけが見えた。
「…来てくれてありがとう」
『彼方ちゃんの呼び出しやからの。寧ろ嬉しいきに』
「そう」
『相変わらず冷たいのー』
最初の一言を発してしまえば、そこからは先ほどまでの緊張感が嘘みたいに消えていく。うん、いつもの調子だ。大丈夫。それで話せばいい。
「あの、ね、伝えたいことがあって」
『なんじゃ?』
店長に伝えたこと、そのまま仁王君に伝えればいいんだ。
「…胸が痛くて、食欲もなくて、わけもわからないのに泣きたくなる。この気持ちって、なんだろう…?」
『え…?』
「仁王君のこと考えると、仁王君と一緒にいると、いつも同じこと考えてる。この気持ちはなんなんだろう、って」
自分でもよくわからない。考えたくないのに、いつの間にか考えてしまっている。考えたってなにかわかるわけでもないのに。余計にごちゃごちゃして、更には苛々してしまう始末だ。
「…あの…仁王君?」
『…………』
「おーい?」
いくら呼びかけても返事がない。やはり、この質問は愚問だった。もうやめよう。これ以上仁王君までも混乱させるのは私が嫌だ。
「…意味わかんないよね、ごめんね、忘れて」
『忘れん…』
仁王君は確かにそう言った。
途端、がたんと音をたてて立ち上がり、私を見下ろす形で前に立った。私もそれに目線をあわせ、仁王君の顔を見つめる。
『…彼方ちゃんは、』
「ん?」
『行動より言葉?それとも、逆かの?』
私は黙って首を傾けた。
行動より言葉?意味がわからなかった。
仁王君がはあ、と息を吐くのがわかって、私はまた真っ直ぐに彼を見つめた。
『その気持ちは…』
小さく呟かれた仁王君の声。
聞こえないって、そう言おうとしたけれど、動きかけた唇は仁王君のそれに塞がれていた。
(20120301)
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