長編3
□物語にはプロローグみたいなもんが必要でしょ。
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私は、それはそれは普通に生きていたい。
「せんぱーい!比呂士さーん!」
『おぉっ!愛しの彼方よ!俺の胸に飛び込んでおいで!』
「先輩の胸にはキャベツしかないし』
『いや、ないし』
確かに胸にキャベツはない。しかし、先輩の手にはキャベツ一玉が握られている。お、今日のキャベツはまた一段とでかいな。
『彼方も春のこと、言えないんじゃないですか?』
『いい加減ポケットにきゅうりとかやめろし』
「ちっちっちっ、甘いですよ先輩。きゅうりはいつでもどこでも持ち運び可能。素手でキャベツ持ち歩いて恥ずかしくないんですか先輩ぶわっ、はっ」
『恥ずかしいって思ってる時点で野菜人生は終わんだよ(どや。つか最後笑うな』
私はきゅうり好き。先輩はキャベツ好き。
こうしてたまに張り合うことがある。
でもそのたび、比呂士さんが呆れ顔で止めてくれるのだけど。
『はいはい、もうその辺で』
『わかってないなぁやぎゅりん。君も心太を馬鹿にされたら黙っていられないだろー?』
『あなた達と一緒にしないでください。というかその呼び方やめてください』
『きゃっ、やぎゅりんに怒られちゃったわっ』
『………』
「先輩キモー…」
これが、いつもの私達の会話。
春先輩とは帰宅部を一緒に立ち上げた仲(因みに顧問はいません。部員も私達二人だけです)。比呂士さんとは小学校の頃からの大親友。私と先輩はこんなお気楽な性格だから比呂士さんが敬語を使うのが堅苦しくて嫌で、止めてくれって頼んだんだけど呼び捨てにしてもらうのが精一杯で。でも、比呂士さんが呼び捨てにするなんて私達だけだと思う。やば、比呂士さん好きすぎる。
『あ、彼方はそろそろ戻った方がいいんじゃないですか?』
「えー」
『彼方よ、そんなに俺と離れるのが嫌か』
「先輩…」
『さぁ来いっ!』
「先輩っ!…って行くかぁあああっ!」
彼方に嫌われたーとかわけのわからないことを言いながら比呂士さんに泣きつく先輩。なんでこうなった。
「もー、泣かないでくださいよ!」
『…ごめん』
意外と素直じゃないですか。先輩まじ惚れるわ。そんなことを考えてたら、手のひらになにかを乗せられる。
『仲直りの印』
「ありがとうございま……ってキャベツかい!」
その言葉の勢いのまま、私は先輩の顔面目掛けてキャベツを投げつけた。
(20120115)
やってしまった。とうとうやってしまった。この小説を公開してしまったあああああ←