長編2
□1music
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「んー…なんか違う…」
私は殴り書きで書いたかのように汚く記されている音符を見つめ、あぐらをかいた足にお気に入りのギターを乗せた。
消しては書いて。それを何度も繰り返しては、ギターを弾いて確かめた。
「………ぅうあっ、出来たー」
大きな欠伸をして、両手を思い切り上へと伸ばした。
自分の曲が出来たときの達成感は、言い表せないほどに大きい。実際に自分でつくってみないと感じることの出来ない感覚だ。
私は曲が出来るたび、その達成感のような、人と違うことをしているという優越感に浸る。
まさに、自分だけの世界。
『お前、授業サボってギターとかかっけくね?』
自称、自分だけの世界に入り込んでいると、なんだか近くから男の声がする。
聞いたことのある、声だな。どっかで、うん。
「あっ!わかった!君、バスケ部でしょ!」
『そうだけど。名前は、わかる?』
「ちょい待ち」
手のひらをその人物に向け、待って、とアピールした。
確か、この間親友に連れられて行ったバスケの大会で、見た…はず。
えーっと、ここは秀徳高校。そしてバスケ部は秀徳バスケ部。キセキの世代を獲得して、今勢力をのばしていて、一年レギュラーが二人。一人がキセキの世代だかいう有名な人で、もう一人がパスするのが上手い人。名前は確か―――…、
「……みどりましんいちろう、だっけ?」
『いや、それ全くの別人だから。しかも、名前間違えてっから。正確には、緑間真太郎っつーの。…で、俺の名前はわかった?』
全て親友情報なため、うろ覚えだった。今は名前を思い出したいのに、どうでもいいことだけ覚えている。しかも名前間違えるとか、みどりましんたろうさんすいません。
「―――……あっ!」
『なに!?思い出したわけ?!』
あのバスケの試合で、相手のチームのパスをことごとくカットしていたあの釣り目の人。
バスケしてる姿がとても輝かしくて、眩しかった。
あの爽やかな笑顔も、余裕そうな表情も、全てが魅力的で何故だか彼に吸い込まれた。
鷹のように鋭い瞳、彼の名前が知りたくて、親友に聞いた。
「ねぇ、夢、あの人……なんて名前なの?」
『んー?あの人かっこいいよね!名前はね、「たかおかずなり」って言うんだよ!』
「………たかお、かずなり…」
『おっ!せーかい!じゃ、ご褒美に握手っ』
たかお君が手を差し出してきたから、私もそれに応えた。
たかお君の手は、温かい笑顔と比例し、とても温かかった。
『俺は高尾和成。よろしくな、神崎彼方ちゃんっ!』
―――なんで私の名前…?
そう聞こうと思ったのに、発せられた言葉はよろしく、の一言だけだった。
(20110709)