長編2

□5music
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「…どうする?」

『どうするもなにも、田城には真ちゃんがついてるし、大丈夫っしょ』

「…そうだよね」

『おっ!丁度近くにゲーセン発見!行こーぜっ』


私は黙って頷いた。大丈夫だよね。夢の傍には緑間君がいるし、きっとなにかあったら連絡をくれるはず。…そう、きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせて、私達はゲーセンへと向かった。






取り敢えず街中でずっと抱き締め続けるわけにもいかなかったので、近くの喫茶店まで田城の手を引いた。
一応泣き止んだみたいだが、顔は林檎のように真っ赤だし、瞳も軽く充血している。


『大丈夫か?』

『…うん、ありがと。…ごめんね』

『…いや、』


なにを話せばいいのか。普段からあまり話すことのない田城に、なんと声をかけてやればいいのか。黙々と考えていると、田城がクスッと笑った。


『…笑ったな』

『…えっ、』


なんだか微笑ましい気持ちになった。少し照れたように顔を伏せる田城を、柄にもなく可愛いと思った。今まで他の男子が、クラスの女子を可愛いだの美人だの言っているのが正直理解できなかった。でもきっと、それがこの気持ちなのだろう。
俺はそう思った。






「うわぁ…すごい音…」

『ゲーセン初めて?』

「うん」

『びっくりだな』


高尾君は目の前の四角いボックスのようなものを指さして、これがプリクラ、と言った。ほう、これがあの…プリクラ。言われるがまま、中へ入ると高尾君はなにも言わずお金を入れた。


「あっ、お金…」

『いーのいーの』


画面をさっさとタッチしていく高尾君。『よし、カメラ見て』そう言われて、私はなんのポーズもしないまま。
パシャ、撮り終わったという合図の音が響いて、なんだか泣きたくなった。


『ははっ!彼方ちゃん緊張しすぎっ!リラックスして』

「う、うん」


高尾君の腕が私の肩に回ってきて、一瞬ビクッと反応してしまう。…リラックスリラックス。私は自然に見えるようにピースをした。






『…今頃、二人はプリクラ撮ってるのかなぁー…』


独り言のように呟く彼女。わざわざ自分から傷を抉るようなことを言う。なんだか自分のことのように胸が痛くなった。
それも束の間、俺は彼女から発せられる言葉に驚かされることとなる。


『…よし、プリ撮りに行こう!』


なにを思ったのか、田城は突然そう言いだした。


『…俺はあまりそういうものは好きではないのだが…』

『…私も、あんまり好きじゃない』

『…じゃあ撮らなくてもいいだろう』

『高尾君を諦めるため!そして…緑間君を好きになるため』


彼女みたいに、俺は素直に言えない。
けれど、いつか田城が俺を好きだと言ってくれたら、俺も伝えよう。
そのために俺は、黙って彼女の腕を引く。






『…日も暮れてきたなぁ』

「そうだね…」


楽しかった一日も終わる。一日中曲のことを考えていなかったことに気がついてびっくりした。名残惜しそうに夕焼けを見つめる。


『最後に行きたいところがあるんだ』


そう言って連れてこられたのはこじゃれたアクセサリーショップ。ここで待ってて、と言われ、店の前で一人佇む。
暫くして、高尾君が出てきた。今考えれば女の子の多い店で、男一人で入っていくなんて凄いことだ。ん、と紙袋を差し出され、恐る恐るそれを受け取る。


「…うわぁ」


中に入ってたのは指輪だった。取り出してはめようとすると、それを高尾君に取られ、あれ?くれるんじゃないの?と思った。


「?」


黙って首を傾げると、高尾君はポケットからチェーンを取り出し、それに指輪を通した。私の首に腕を回して、それをつける。
私と高尾君との距離が今までで一番近くなった気がする。そんな感覚に、私は心臓の高鳴りを感じていた。


『…お揃い』


高尾君が自分の首を指さす。高尾君の首にも私と同じチェーンとその間に通された指輪があった。


『指にしたら色々と邪魔だし、首ならバレねぇだろ?』

「…でもいいの?こんなのもらっちゃって」

『俺がつけててもらいたいんだよ』


お揃い。高尾君と。にやけそうになるのがわかって、口端を押さえる。


『田城と真ちゃんも今から帰るらしいから、俺たちもそろそろ帰るか』

「そうだね」


そう返事を返すと、手を握られた。それに応えるように私は高尾君の大きな手を握り返す。

この気持ちが、きっと恋。





(20111130)
 

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