長編2

□6music
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『…この間はいなくなっちゃってごめんね』

「ううん、大丈夫」

『あの後、高尾君とうまくやれたのー?』

「…まぁ、」

『なになに?!』

「…プリクラ撮って、アクセサリー貰った」

『アクセサリー?』


うん。そう言って私はワイシャツのボタンを一つ開け、その隙間に指を差し込みチェーンを掴み抜き取る。


『…もしかして、ペアリング?』

「…うん」

『やーるじゃんっ!』


ありがとう、そう素直に言いたかったけど、ずっと心に引っかかっていることがあった。
夢のあの表情。どこか切なげで、今にも泣き出してしまいそうな、あの表情。
私はあの日からずっともやもやしたままでいた。


「…夢は?」

『え…?』

「夢は、緑間君となにかあったの?」

『…まさかぁっ!あるわけないじゃん!お互い好きなわけでもないのに!』

「…そっか」


このもやもやの原因は、私自身に問題があるのかもしれない。
自分自身と、そして、夢と。ちゃんと向き合うべきときなのかもしれない。






そうは言っても、夢とはなんだか朝から気まずくなったままで、顔をあわせづらかった。
夢と喧嘩なんて、したことなかった。これを喧嘩とよべるかどうか定かじゃないけど、なにかが問題で二人の仲が拗れつつあるのは確かだ。
ちゃんと夢と話したい。お互い思っていることはっきりさせたい。
そうは思っても、なかなか切り出すことができず、今に至る。


「………緑間君」


考え込みすぎて目の前の存在に気がつかなかった。そこまで自分の世界に入り浸っていただろうか。
目線をあわせようと、私は顔を上げる。


『ちょっと話したいことがあるのだよ』


もしかしたら、昨日のことかもしれない。なにかが鍵となるかもしれないのなら、私はこの話を聞かなくちゃならない。
私は立ち上がった。


「わかった」






突然呼び出されたにも関わらず、その張本人である緑間君はなにも言わない。でも私から会話を切り出すことも出来ず、ただただ沈黙が続く。
…特に気まずいとか、逃げ出したいとか思っているわけではないが、どうすればいいのかわからない。

外見は冷静に装いながらも内心めっちゃ焦っていると、そんな私に気がついてか、緑間君がごほん、と大きく咳をする。


『…神崎は、』

「ん?」

『田城と仲がよかったな』

「…そうだけど」


それがなにか。そう言いたげに緑間君を見つめる。


『…あいつは、色々と隠してしまっている』

「わかってる」

『その原因は、神崎お前なのだよ』

「…わかってる」


…知っていたのか。緑間君はそう言って眼鏡をくいっ、と上げる。
わかってるよ。今日一日ずっと考えて、ちゃんと夢と向き合おうとした。でも、出来なかった。ただの言い訳だってわかってる。でも、そう言わずにはいられないんだ。


「…緑間君もわかっていたんなら、夢のこと好きなら、私に教えてよ!どうすればいいのか!…今までこんなことなかった。なにかあったらお互い喧嘩になる前に話し合おうとした。でも夢からはなにも話してもらえない。…怖い。自分から聞くことも、聞かされることも。ただ逃げてるだけだってわかってる。でも!今の夢には緑間君しかいない気がするの。私でも高尾君でもなく、緑間君を頼っているような気がするの…」


もうなにも考えたくなかった。聞きたくなかった。私は溢れる涙も無視して、走り出した。






「うっ………ふっ、」


もう嫌だ。なにもわからない。
こんがらがった頭の中に高尾君の顔だけが浮かぶ。高尾君、高尾君。今すぐ会いたい。


「高尾君………」


何度も高尾君の名を呼んだ。涙を拭くこともなく、立ち上がることもなく。ただただ呼んだ。高尾君、私高尾君が好きだよ。高尾君、今傍にいてほしい。高尾君、高尾君……。

彼方ちゃん、って、いつもみたいに笑いかけて。

今、私には高尾君しかいない。


「……うぅっ、たかおっ、くん……。たかおくんっ…!」


『……彼方っ!?』


屋上のドアを思い切り開けて私に駆け寄ってくるのは愛しい愛しい人。
私の気持ちが、高尾君に届いたのかな。
高尾君に会えたことで、私の中のなにかがゆっくりと溶けていくような気がした。


「…あり、がとうっ……」


私はそれだけ言って、高尾君に抱きついた。






『……田城』

『緑間君?どうかした?』

『…すまなかった』


いきなりの謝罪。え、私緑間君になにかされた?頭の中の記憶を隅から隅まで探してみるけど、なにも心当たりがなかった。


『え?どうしたの?』

『俺が神崎に余計なことを言ったんだ。田城が気持ちを隠してしまうのは、神崎が原因だと』

『え……』


どういうこと?意味が分からない。余計なことってなに?私が気持ちを隠してるって、彼方が原因ってなに?
色々聞きたかったけど、全て言葉になって表れなかった。


『…俺が言えることではないが、このままお前の気持ちを伝えないままのほうが仲を拗れさせてしまっている。…神崎はそんなやわじゃないと思うのだよ。きっとお前の気持ちもわかってくれる。ちゃんと話してみるといい』

『緑間君…』

『俺は…田城を羨ましく思う』

『え……』

『お前はなんでも素直に言うことが出来る。俺には真似できない』


そんなことない。緑間君はただ口下手なだけだよ。緑間君のこと、ちゃんとわかってくれる人がいる。だから、大丈夫だよ。心の中では言ってみたものの、やっぱり言葉とはならなかった。


『…でも今そんなお前が、素直になることが怖いというのなら、俺はちゃんと言うべきだと思ったんだ』

『……なにを?』


恐る恐る、聞いてみる。


『…俺は、なにがあっても田城を信じているのだよ。だから、頑張れ』

『…でもっ』


そう言って顔を俯かせる。信じてるって言われても、私はどうしたらいいのかわからない。一人じゃなにもできない。怖い、怖いの。


『………っ、』


そんな気持ちを全て包むかのように、緑間君が私を抱き締めた。


『…緑間、くん…』

『好きだ』

『…えっ』

『お前が、好きだ』


緑間君の素直な気持ち…口下手な緑間君が私を元気づけようと、自分から素直になってくれている。それなのに私は怖い怖いって逃げようとしてた。
弱気になっちゃ駄目だ。どうなるかなんて、話してみないとわからない。ちゃんと話してみよう。彼方と。
こんなことで壊れる友情なんかじゃない。少なくとも私はそう思っていたいから。


『…ありがとう、緑間君。私、話してみる。それと、』

『…返事なら、いつでもいい』

『…うん。…でもっ、前言ったことは嘘じゃないよ!ちゃんと、緑間君のこと好きになる。それまで、待ってて…』


緑間君は黙って頷いた。

気がつけば日も暮れて、外は薄暗くなっていた。
―――明日、明日話そう。
そう決めて、緑間君の大きな背中に腕を回した。





(20111206)

話がころころ変わってる!
誰か文才ください………
 

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