長編2

□7music
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『彼方、明日の放課後、屋上で待ってる。話したいことがあるの』


昨日の夜、夢からそう書かれたメールが届いた。
…嫌でもはっきりさせなくちゃならない。強制的に、となると、なんだか恐怖心も薄れてきた。それに最近曲作りにも専念できていない。もしかしたらこれは神様がくれたチャンスなのかもしれない。
夢とはっきりさせよう。昨日高尾君に慰めてもらって、自分の中で少し整理が出来た気がする。
きっとこんなことで壊れる私達なんかじゃない。何年もずっと親友をやってきたんだ。


「…よしっ!」


大丈夫。そう言い聞かせて屋上へと向かった。






「…あ、」


微妙に錆びついたドアを開けると、すでにそこには夢の姿があった。秋の屋上は少し肌寒く、冷え性の私は手をすりすりとさする。


『…彼方…』

「なに?」


あまりにも挙動不審だと、逆に夢を困らせてしまう。せっかく勇気を出して夢が話をしてくれようというのに、それではことが進まない。
出来るだけ冷静を装い、そう聞き返す。


『…話したいこと、っていうのはさ、私の好きな人のこと』


…好きな人?!夢の、だよね。
こういう話は私が高尾を好きになるまでしたことがなかった。私も夢も、好きな人なんか出来たことなくて…でも、そう思ってたのは私だけだったのかもしれない。夢はずっと前から、その人のことが好きだったのかもしれない。
親友の私に言えないくらい、大好きだったのかもしれない。


『…ずっと彼方に言えなかった。これだけは。…でも』

「…でも?」


夢は今にも泣きそうな顔になりながら、こう言った。


『彼方との仲が壊れるくらいなら、言うよ!全部隠さずに言う!…だからっ、泣いたりしないで……!』


夢に言われて気がついた。…私、泣いてる…?そう考えたら、またぽろぽろと涙が零れ出した。


「…夢、ごめんっ、なさい………」


…私は、夢にばっかり責任を押しつけてた。そのせいで、私はこんなにも夢を追い詰めて……。
もう何回後悔すればいいんだろう。
もう何回、夢のこと傷つければ気が済むんだろう…?


「…ごめっ、傷つけ、て……」

『違うの。私が彼方を傷つけて……』

「ごめん、言わなくて、いいっ。言わなくて…い、からっ……」


私はひたすらごめんと謝り続けた。そうすることしか出来なかった。それでも彼女は優しく言う。違うの。無理して言おうって決めたわけじゃないの。私が言いたいの。彼方に言いたいの。私の、好きな人を。

私、高尾君が好きなの。


そう言って立ち去る夢の後ろ姿をただ見つめることしかできなかった。
…本当にこのままでいいの?そう、心の中の私が言う。
また後悔してしまう。また私は、私は―――。



「夢っ!!」

『………』


無言で振り返る。今にも泣きそうな顔の夢を見つめて、大きく息を吸い込む。



「…ありがとうっ!言ってくれて!夢が勇気を出してくれなかったら、私は前に進めないままだったっ…!私、高尾君に告白するよっ!振られたらきっぱり諦める!」

『えっ!?そんな…』

「夢も…もし、本気で高尾君のことが好きなら、正々堂々勝負しよう」

『ちょっと待って!!』


慌てたようにそう言いながら両手を私に突き出してくる。私、なにか間違えたことを言っただろうか。…ただ嫌だったのだ。私が夢に高尾君が好きだと言ってしまったせいで夢が高尾君を諦めようとするなんて。



『…確かに、私は高尾君を好きだって言った。でもね、私、緑間君を好きになりたい。いや…、多分もう好きなんだと思う。だから、彼方はなにも気にしなくていい。私が、決めたことだから』


なんか紛らわせるようなこと言ってごめんね、と切なげにはにかむ夢。
緑間君が好きなのか…そっか。


「………」


なんか…、ほっとした。





(20111213)
 

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