長編2

□lastmusic
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今日は待ちに待った学校祭。私のクラスではメイド・執事喫茶をやることになったが、私はなにもすることがないので七時まで歌の練習でもしていることにした。
今日は晴天。少し涼しすぎる風を感じながら、ギターを抱える。
じゃーん、と適当にギターを鳴らせば、なんだかいつもより軽い感じがして自然と気持ちも軽くなる。

調律を整え、思い切り息を吸う。


「…やっぱやーめたっ」


ギターを横に、私は大の字になって寝転がった。
瞳を閉じれば、今までのことが走馬燈のように思い出される。

屋上で出会ったこと、メールしたこと、デート(四人で)したこと、プリクラとったこと、ペアリングもらったこと、友達に気持ちがうまく伝わらなかったこと。
まだまだたくさんある。

楽しかったことも辛かったことも、両方ひっくるめて今となっては懐かしい思い出となりつつある。

そんな思い出と、暖かな日差しのせいか、私は再びゆっくりと瞳を閉じた。






「……ん、」


霞む視界のなか、夕日が沈みかけている風景を見た。
腕時計に目を向けると、短い針は六時を指している。長い針はというと―――、


「…五十七分!?」


もう始まってしまう!
そう思ったと同時に急いでギターを持ち、屋上から飛び出した。





――――………


『さあっ、始まりました!皆さん、この日のために様々なパフォーマンスを用意されてきたことでしょう!今、それを発揮すべきときです!!では、エントリーナンバー一番!二年「ちょっと待ったー!!」


体育館の大きなドアを両手で思い切り開ける。一度床に置いたギターを片手にずかずかとステージと上がっていく。たくさんの人が私に視線を向けるなか、たった一人高尾君だけが私の目に映った。


『彼方っ!?』


驚きの声をあげる高尾君を横目に、司会者からマイクを奪い取る。


「…突然すいません。五分だけ、私に時間をください」


会場のざわめきが、一瞬でやんだ。


「この曲を届けたい人がいるんです。今じゃなきゃ駄目なんです。だから、黙って聞いてください…」


マイクを床に置いて、空気を思い切り吸った。





出会いは、少し前の屋上

いつのまにか、私と君を繋ぐ場所になっていたよね

いつもの場所に行けば君に会えるような気がして

君の笑顔が全てを忘れさせてくれる

言葉で誤魔化すのは、ただの照れ隠し

君に名前を呼ばれるたびに

胸の鼓動が伝わりそうで、

言葉だけじゃ伝わらない

この気持ちを

今すぐ君に届けたい

だからこの歌を歌います

何度でも叫びます

貴方だけに…


初デートは、映画館でした

手を繋いで、初めてのプリクラに頬ひきつらせて

どんなときだって君は私を笑顔にさせてくれるから

私もなにかを返したいと思う

メールで素っ気ないのは、ただ恥ずかしいだけ

君からもらったペアリング

いつも大事にしてるよ

言葉だけじゃ伝わらない

ありがとうを

今すぐ君に届けたい

だからこの歌を歌います

何度でも叫びます

貴方だけに…


君がくれた「初めて」は

全部、忘れないよ


だからこの歌の意味

ちゃんと伝わるまで

私はギターを掻き鳴らす


「いつもの場所」で





マイクもなくて、とても大きいとはいえない声だった。

けれど、彼女の声は会場中に響きわたるようだった。






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