長編2
□act.1
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いつのことだったか。
親友のあの一言が、
全ての始まりだったんだと思う。
『今日はね、話せたの!』
『…話しかけられなかった』
『あのねっ、柳君が…』
この話のふりには、慣れてしまった。
嬉しい話も、悲しい話も、全て「柳蓮二」という男が絡んでくる。そんな親友の話をなんとなく聞き流しながら、あんな奴のどこがいいのかと毎回考える。うーん、理解出来ない。
「…そういえば、今日生徒会あるんだった」
『いいよね、彼方は。柳君と一緒に居られるから』
「あんな奴と一緒に居たところでなんの得もない」
『私にはあるの!ねぇ、好きな人とか聞いてみてっ!』
「えー」
『お願いっ!』
両の手のひらを合わせてそう言う夢を見て、私はしぶしぶ頷いた。
□
放課後、誰よりも先に生徒会室に来た私は、特になにもすることがないので掃除をすることにした。
「…好きな人、か」
私にはそんな人できたこともない。好きになることがどういうことなのかもわからない。
止めたくても、止められない気持ち。理屈では説明できても、実際には理解しかねる感情だ。
「…突っ立ってないで入ってくれば?」
私は窓の外の風景を眺めながら、ドア越しに呼びかける。
ドア越しで結構距離があるものの、後ろに立たれるというのは気分がいいものではない。
するとガラ、という音をたててドアが開かれる。
『よくわかったな』
「気配がしたから」
『そうか』
それで会話は終わり、私達は別々の作業に取りかかった。私は窓拭きを、柳は荷物を置いてソファーに腰掛けている(柳のは作業とよんでいいものか)。
「………」
『………』
この沈黙は嫌いなわけじゃない。でも居心地が悪く感じるのもまた事実。
だからといってなにを話したらいいものか。これといった話題が………
「あっ!」
『…いきなりなんだ』
「そういえば柳、好きな人いる?」
『…何故そんなことを聞く』
「…なんとなく」
『……さぁ、』
その口振りはいる、と、そう解釈していいのだろうか。よし、そう解釈させてもらおう。
「…で、誰なわけ?」
『答える必要はない』
「じゃあいるはいるんだね」
夢にはいるとだけ報告しておこう。そう言えば夢は喜ぶだろうか。それとも悲しむだろうか。そんなことを考えながら、雑巾を洗いに行こうとドアの方へと向かう。すると柳に名前を呼ばれ、私は振り返らずに返事をする。
「なに?」
『今日の活動が終わったら、一緒に帰れないだろうか…?
大事な話があるんだ』
□
月が昇り始めた頃、私と柳は肩を並べながら帰路についていた。
頭の中で今日の生徒会で伝えられた内容を確認しながら、その片隅でこんなとこ夢に見られたら終わりだな、なんて考えたりもした。そう思うなら断ればよかったのになんてことも思った。でもできなかった。自分で自分が、よくわからない。
「柳、大事な話、って…」
『ああ』
柳が立ち止まって、私も立ち止まる。
すると、私はいつもと同じ道を辿ってきていたことに気がついた。それは同時に、柳が私を家まで送り届けてくれたことを意味していた。目の前でがさごそとなにかを探している柳に、心の中で感謝する。
「早く話してよ」
『すまない。これなんだが…』
そう言われると同時に、差し出させるノート。
「な、に」
『……の、』
「えっ?」
『田城のデータを、教えてはくれないだろうか』
いつか親友が言っていたことを思い出した。
『私…柳君のことが好きなんだ』
(20120109)
柳新連載!
なんか一話目からぐだぐだですね…すいません←