長編2
□act.2
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「というわけでよろしく」
ノートを受け取ったはいいものの、なにを書いていいのかわからず、自分の部屋に籠もってうなされるまで考えたのは昨日の夜。私は結局白紙のまま、次の日の朝夢に例のノートを突き出した。
『…なにこれ』
「ん?ノート」
『見ればわかるよ!』
まあそりゃあそうでしょうね。
「えーっと、これに夢のプロフィールを書いてほしいんだ」
『…なんで?』
いかにも怪しそうだと言いたげな夢。そんな目で見つめないでくれ。
「なんか夢のこともっと知りたいなーなんて…」
『ふーん』
「どんな些細なことでもいいんだ。好きな科目、食べ物、テレビ、音楽。…いつも何時に寝るだとか、朝何時に起きるかとか。とりあえずノート全部埋めるくらいの勢いでお願い」
…私、完全にストーカーじゃん。
夢は溜め息を吐いて、それから口を開いた。
『…しょうがないな、ただし、悪用しないでね』
「さんきゅっ!」
これだから夢って好きだ。
□
『調子はどうだ』
放課後、掃除を終え玄関に向かっていると柳に話しかけられた。
私は靴を履き替えながら、返事をする。
「今日、夢にノートを渡した。これでいいんでしょ?」
『ああ、ありがとう』
「別に、」
今更ながら思う。私、なんでこんな奴のためにこんなことしてるんだろう。別に弱みを握られたわけでもない、脅されたわけでもない。それなのに。
私がこんなことしてる意味なんてないのに。
「…わけわかんない」
『どうした?』
「いや、別に。…というか、柳と話してるとこ、あまり見られたくないんだ。だから、メアドと電話番号教えてくれない?」
我ながら酷いことを言っていると思った。でも柳は顔色一つ変えることなく小さく笑った。
『ああ、構わない』
「じゃあ、夜電話する」
□
風呂から上がって、携帯を開くとメールが一件。
送り主は夢。明日にはノートを返せそうとのことだった。
それを見て柳に電話しなければならないことを思い出し、玄関先で受け取った紙切れを見ながら電話番号を押す。
プルルル…
『はい』
「あ、柳?」
『そうだが、その声は彼方か?』
「うん」
電話越しに聞こえる柳の声は柳じゃないみたいだった。顔を見て話をしていないせいなのだろうか、別人と話している気分だ。
「…明日にはノート渡せると思う」
『そうか』
「…で、どう渡せばいい?」
柳と会うのは極力避けたい。それは柳もわかっているはずだ。
『ふむ。明日、お前は用事があるか?』
「ないけど、」
『ならば、部活が終わるまで図書室で待っていてはもらえないだろうか?』
なんで柳のために…。今回だけでなく、前も。何度も思った。
でもそのたび、気がつけば気持ちとは裏腹なことを言っていて。
「…わかった」
本当の気持ちは、どこにあるんだろう…?
(20120123)
久しぶりの更新かも